本コラムでは、学校現場で着られている衣類として「制服」に注目をし、学校でのリユース事例から衣類の廃棄問題、衣服ロスに向き合いたいと思います。
私たちの生活には「衣食住」が必要不可欠とされています。その中でも衣服は、時には暑さや寒さから私たちの身体を守ってくれ、ある時には、自分の個性や集団の統一性を周りに表現することなど、たくさんの役割を担っています。
縫製技術の向上やインターネットの普及に伴い、衣服を安く手軽に手に入れることができる一方で、衣類の大量生産、大量廃棄が世界的に大きな問題となっています。
しかし昨今、古着文化の流行やフリマアプリの普及など、衣服を次の人に届ける動きがみられます。
以前、Operation Greenのコラムでは、「ファッションと環境」をテーマに、企業や学校での持続可能な取り組み事例を紹介しました。是非こちらもお読みください。
・サステナブルファッションとは?学生の取り組み事例 | Operation Green 循環型○○の実践プログラム
・アパレル企業が取り組む衣類のリユース活動事例 | Operation Green 循環型○○の実践プログラム
私たちは普段どのくらい服を手放しているのでしょうか?
環境省が2022年に行った調査によると、一人当たり年間約18着の衣服を購入し、そのうち約15着が手放され、手放す枚数よりも購入枚数の方が多いことが分かっています。
そして、一年間のうちに一回も着られていない服が一人あたり35 着もあることも報告されています。
〈参考資料・記事〉
環境省_サステナブルファッション (env.go.jp)
では私たちが着ている衣服は、手元を離れた後はどのような工程を辿るのでしょうか?
環境省と株式会社日本総合研究所の調査によると、日本国内に新規供給される衣類が約81.9万トン(2020年)に対し、その9割に当たる約78.7万トンが事業所や家庭から使用後に手放されているといいます。
手放されている衣類のうち、廃棄される量は手放される衣類の64.8%の約51.0万トンです。
リサイクルされる量は計12.3万トンで、手放される衣類の約15.6%を占めます。そして、リサイクルショップやフリマアプリ等を通じ、古着として譲渡や売却等にリユースされる量は計15.4万トンで手放される衣類の約19.6%と報告されています。
〈参考資料・記事〉
環境省_サステナブルファッション (env.go.jp)
総合環境政策 | 環境省 (env.go.jp)
服を製造する過程では二酸化炭素(CO2)が排出されます。
また、原料となる植物の栽培や染色などで大量の水が使用され、服を生産する過程で余った生地などの廃棄物も排出されます。
服一着あたりに換算すると、二酸化炭素は約25.5㎏排出されており、500㎖のペットボトル約255本分に当たります。水は約2300ℓ消費され、浴槽に換算すると約11杯分に当たります。
このように、服一着を作るにも多くの資源が必要となり、大量に衣服が生産されている分その環境負荷は大きくなっています。
〈参考資料・記事〉
環境省_サステナブルファッション (env.go.jp)
st_fashion_and_environment_r2gaiyo.pdf
学校で着用する衣類といえば、制服を思いつく方が多いでしょう。
公正取引委員会が平成29年に実施した調査によると、調査を行った公立中学校のうち、441校が制服を指定しており、これは全体の約98.6%を占めていると報告されています。
このことから、全国のほとんど全ての公立中学校で制服が指定されていることが分かります。
〈参考資料・記事〉
(平成29年11月29日)公立中学校における制服の取引実態に関する調査について | 公正取引委員会 (jftc.go.jp)
【Vol.83】「学校制服の着用状況」|カンコーホームルーム|メディア|カンコー学生服 (kanko-gakuseifuku.co.jp)
st_fashion_and_environment_r2gaiyo.pdf
学校制服のリユースとは、場合によっては、ほつれや名前の刺繡を直すなど、修繕を施す場合もありますが、使用しなくなった制服をそのままの状態でもう一度利用することです。
制服のリユースを行う手段として主に二つ挙げられます。
一つは、卒業などで着なくなった学校制服を学校やPTAなどが寄付を募り、その学校にこれから入学する生徒や現在、在学している生徒に無償、または、低価格で譲る活動です。
もう一つは、リユース事業者や中古品店などが制服を買い取り、店頭やインターネットで再販売する場合があります。
〈参考資料・記事〉
カンコー学生服 |カンコー学生服 (kanko-gakuseifuku.co.jp)
st_fashion_and_environment_r2gaiyo.pdf
学生制服や体操着の販売を行う菅公学生服株式会社は、ここ数年、学校制服のリユース活動が広がっていることを受けて、全国の中学・高校生1400人を対象に、学校制服のリユースについての印象、学校制服のリユースの利用意向とその理由についての調査活動を行いました。
学校制服のリユースの印象調査では、「とても良い」と「まあ良い」の回答を合わせると、全体では学校制服のリユースを好意的だと思う回答が8割を超えました。
学校制服のリユースを利用したい・着たい理由として生徒からは、「お金の節約になるから」「家庭の負担を抑えられる」「捨てないで使うのはいいことだと思うから」などの経済面や環境への配慮の意見の他、「成長してサイズも変わるので、いろんな人と協力していけたらと思う」「制服はあまり傷まないイメージがあるから」という意見も挙がりました。
しかし、一方で学校制服のリユースの利用意向調査では、リユース品の制服を「利用したい」と思う生徒は全体の5割に留まりました。
利用したくない・着たくない理由として、「他人の制服は着たくない」「潔癖症が少しあって嫌だから」という衛生面やリユース品への抵抗感がみられました。また、「自分の身体のサイズに合わないかもしれないから」「制服は新しい方が気分があがるから」「制服は一生に一度だから新しいものを着たい」という自分だけの新しい制服を着たいという意見も挙がりました。
〈参考資料・記事〉
【Vol.206】中高生の学校制服のリユースに関する意識 :: カンコー学生服 (kanko-gakuseifuku.co.jp)
実際に学校で行われている、学生制服のリユース事例を紹介します。
岐阜市立青山中学校では、着なくなったブレザーやネクタイなどの制服や体操服などが寄付され、他の生徒に届ける取り組みを行いました。この制服リサイクルでは、生徒の保護者がボランティアとして活躍していたそうです。
横浜市立東鴨居中学校でも制服リユース販売会を行いました。販売会の企画・運営では同様に、PTA役員や実行委員である保護者の姿がありました。
大阪府立槻の木高等学校では、学校の卒業生が寄付してくれた制服を現役生が再利用する取り組みを行いました。寄付された制服が教室に集められ、現役の生徒たちは自分に合うものを楽しそうに探していきます。
リユース品の中には、丁寧にクリーニングされた制服や、未使用の制服もあったそうです。学年ごとに教室に入る時間を区切っていましたが、開始前にはリユース品を探そうと多くの生徒が教室前に並び、リユース品を待ち望む行列ができていたそうです。
兵庫県立加古川西高等学校では、文化祭の行事の一環として、制服リユース販売を行いました。生徒だけではなく保護者の購入も可能とし、全品200円均一で、制服の他にもブラウスや体操服の販売を行いました。売上金は、生徒会へ寄付されたといいます。
〈参考資料・記事〉
令和3年4月17日(土)制服リサイクルが無事に開催されました。 | 岐阜市立青山中学校 (schoolcms.net)
制服リユース販売会 – 東鴨居中学校 (yokohama.lg.jp)
制服リサイクル – 校長だより (osaka-c.ed.jp)
文化祭 制服リサイクル販売にご協力ありがとうございました | 兵庫県立加古川西高等学校 育友会 (kakonishi.net)
制服の購入費用は、入学にあたって準備する学校用品の中でも比較的高額であると指摘されています。また、制服の販売価格は近年の物価上昇に伴い、上昇傾向と言われています。
国際NGOセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが行った「子ども給付金~新入学サポート2023~」の利用者アンケート調査結果報告書によると、入学時の制服・運動着代の全国平均額が中学1年生は8万9809円、高校1年生で10万435円と報告されました。
これは、2022年度調査と比べて、それぞれ1万円以上高くなっていることが分かっています。
このように新しい制服や体操着を買うことは、家計をも苦しめてしまいかねません。制服や体操着などを低価格、無償でリユースすることで、貧困の問題の解決に繋がることも期待されています。
是非、家のクローゼットで眠っている、着なくなった制服や体操着に、リユース品としての第二の人生を歩ませてあげてはいかがでしょうか。
〈参考資料・記事〉
学校制服、公取指摘で2千円安く 平成29年以降、検証結果を公表 – 産経ニュース (sankei.com)
セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン – 子ども支援専門の国際NGO団体 (savechildren.or.jp)
困窮家庭のために制服や体操着をリユース 宇都宮市で取り組み広がる | 東京すくすく | 子育て世代がつながる ― 東京新聞 (tokyo-np.co.jp)
(ライター:樋口 佳純)