コラムエコスクール再生エネルギー

学校での太陽光発電の事例 メリット・発電量・導入背景も

2024.11.19


政府の方針である「2050カーボンニュートラル」に向けて、再生可能エネルギーによる発電設備を設置する学校が増えています。

内閣府の資料によると、幼稚園を含む全国の公立学校のうち、再生可能エネルギーによる発電に取り組んでいる学校は令和3年度時点で約1万2000校です。発電設備の種類では、太陽光発電が最も多く、約1万1000校で導入されています。

再生可能エネルギーによる発電は、二酸化炭素を排出しないクリーンエネルギーです。そのため、太陽光パネルや風力発電設備によって校内で得られた電力を使えば、火力発電によって発生するCO2を削減できるといえます。

この記事では、時代に先駆けて校内発電に取り組んでいる学校や地方自治体の事例をご紹介します。校内発電を導入するメリットや発電量の目安となる事例も解説しますので、ぜひご覧ください。

校内発電導入のメリット

校内発電には、主に次の3つのメリットがあります。

・実践的な環境教育ができる
・災害時の非常用電力として使える
・CO2削減につながる

太陽光パネルや風力発電設備が実際に校内にあると、より実感を伴った具体的な環境教育を実践できます。安全性を確保したうえで実物を観察したり、生まれた電力を視覚的にわかりやすい用途で使用したりなど、児童生徒がエネルギーや発電を体感しやすい授業が可能です。

また、上級生が下級生に発電の仕組みを教えたり、地域住民に情報を発信したりなど、学んだ内容を他者に伝える機会も作れるでしょう。チラシ作りやプレゼンテーション、動画作成など「伝える技術」を学ぶタネにもなります。

近年は、自然災害への備えとして発電設備を設置する学校もあります。この場合、発電設備だけでなく、蓄電池など電力を貯蔵できる機器も必要です。

頻発する災害に、不安を感じている児童生徒も多いはずです。非常用電源としての設備設置は、災害にどのように向き合うべきか考える機会にもなるでしょう。

【参考資料】
学校での再生可能エネルギー導入の状況は?子供と環境のための学校づくり事例! | Operation Green 循環型○○の実践プログラム
再生可能エネルギー設備等の設置状況|内閣府
「地球にやさしいエネルギーを子どもたちが学び育むために」 -学校における新エネルギー活用ガイドブック|国立教育政策研究所

校内発電による発電量は?金閣小学校の事例


前項で述べたように、校内発電はCO2などの温室効果ガス削減にもつながります。学校に設置できる設備の多くは自然エネルギーをもとに発電するため、CO2を排出しないからです。

では、実際にどのくらいの発電量が見込まれるのでしょうか。一例として、平成28年の文部科学省「スーパーエコスクール実証事業」によって、太陽光パネルと風力発電装置を設置した京都市立金閣小学校をご紹介します。

金閣小学校の立地には、2つの特徴があります。

・北から南に傾斜している「南面傾斜地」に建っており、陽当たりがよい
・風致地区に位置するため周辺に高い建物がない

この2点によって、金閣小学校は非常に太陽光発電に適した土地だといえます。448枚の太陽光パネルを使って、最大発電量合計96.62kWの太陽光発電設備を設置しました。

その結果、平成28年度には最も多い月(3月)で約1万2000kWh、最も少ない月(1月)でも4,530kWhもの発電量を得ることができました。年間発電量は全電気使用量を上回っています。

従来の石炭火力発電によるCO2排出量は、1kWhにつき0.867kgです。金閣小学校での3月の発電量を当てはめると、単純計算で10,404㎏ものCO2を削減できたことになります。この数字は、東京ドーム1個分の面積の森林が吸収する二酸化炭素の量に相当します。

また、風力発電設備では1年間に1,340kwhの電力を得られました。先ほどと同じように計算すると、削減できたCO2は約1,161kgになります。

先に述べたとおり、金閣小学校は太陽光発電に非常に適した土地です。すべての学校で同じように発電できるわけではありませんが、目安として参考にしていただけると幸いです。

【参考資料】
学校現場から考える再生可能エネルギー発電と環境教育 | Operation Green 循環型○○の実践プログラム
学校施設のエネルギー使用実態等調査 フォローアップ報告書|国立教育政策研究所
スーパーエコスクール実証事業 基本計画書|文部科学省

校内発電に取り組む学校・地方自治体の事例

植田東小学校の児童の省エネ意識を高める仕組み

2009年に開校した名古屋市立植田東小学校では、太陽光パネルを校舎屋上ではなくバルコニーの手すり部分に設置しています。太陽光発電設備は校内でも最も陽当たりのよい校舎屋上に設置される場合が多いですが、植田東小学校では児童が日常的に見られる位置に設置しました。

発電量は、1階のスクールラウンジに設置したテレビ画面にリアルタイムで表示されます。休み時間などに児童が集うラウンジは自然採光を取り入れているため、空間の明るさや空の曇り具合などを感じられます。太陽光発電を体感しやすい設計です。

発電した電力は校内で使われるほか、余剰電力は事業者に販売しています。開校した2009年度の総発電量は7812.3kWhでしたが、そのうち20kWhを売電できました。植田東小には雨水を地下ピットに貯蔵する装置や屋上菜園もあり、学校生活の中でより自然を身近に感じられる環境が整っています。

【参考資料】
名古屋市立植田東小学校
愛知県名古屋市立植田東小学校|文部科学省

生徒の声を受けて太陽光パネルを設置した青稜中学校・高等学校

東京都品川区の青稜中学校・高等学校では、非常時への備えとして太陽光発電装置を設置しました。通常は学食用の自動販売機の動力源として使用しています。

太陽光発電装置は、生徒の声を受けて設置されたものです。青稜中高は生徒の意見・要望を柔軟に取り入れており、2021年12月には兼ねてより望む声が多かった全学グリーン電力化も実現しています。

グリーン電力事業者「しろくま電力(ぱわー)」に切り替えた際には、生徒たちが脱炭素や環境問題について学べるプログラムを共同で企画しました。YouTuberでしろくま電力株式会社執行役員の前田雄大氏による特別授業や、茨城県の太陽光発電所の見学会などを実施し、生徒たち自らができる等身大のアクションを考える機会を提供しています。

【参考資料】
青稜中学校・高等学校
グリーン電力に切り替えた青稜中高としろくま電力、共同で学習プロジェクトを実施|PR TIMES
中高生が見たSDGsの現場 青稜中高SDGs部の生徒が茨城県那珂市の太陽光発電所を見学|しろくま電力

「ゼロカーボンスクール」を実現したゆいの杜小学校

栃木県宇都宮市のゆいの杜小学校は、2021年に開校した新しい小学校です。宇都宮市が宣言した「2050年までにゼロカーボンシティ」の達成に先駆けて、校内で使用するすべてのエネルギーを脱炭素化した「ゼロカーボンスクール」を実現しました。

ゆいの杜小学校に太陽光発電設備を設置するにあたって、宇都宮市ははじめて「PPAモデル」を利用しました。PPAモデルでは、民間事業者が発電設備を設置・管理し、利用者側は使用電力量に応じて電気料金を支払う仕組みをとります。初期費用ゼロで太陽光発電を導入できる仕組みです。

ゆいの杜小学校で発電された電力は、宇都宮市が校内で使用された分の電気代を事業者に支払っています。校舎屋上には蓄電池も設置されているため、電力のピークカットにより効率のよいエネルギー使用が可能です。賄いきれなかった電力は、バイオマス発電を行っている「宇都宮ライトパワー」から調達しています。

2024年からは都市ガス・水道など電力以外の脱炭素化のため、市民の太陽光発電によって創出されたカーボン・クレジットの活用も始まりました。2050年のゼロカーボンシティ実現に向けて、宇都宮市は着実に歩みを進めています。

【参考資料】
宇都宮市立ゆいの杜小学校
カーボンニュートラルなまち 宇都宮の実現|宇都宮市
脱炭素先行地域|宇都宮市
PPAモデル|再生可能エネルギー導入方法|環境省

全小中学校に太陽光パネルを設置した埼玉県川越市


埼玉県川越市では、2006年に市内すべての小中学校に太陽光発電装置を設置しました。それぞれの学校では玄関に発電量を表示するモニターを設置したり、理科の授業で校内の発電装置を観察したりなど、児童生徒の学びや環境意識の啓発にいかされています。

川越市では、1996年からステップアップして省エネ運動に取り組んできました。当初は「1%節電運動」として昼休みの消灯や階段利用を推奨から始まりましたが、1999年の「1%節電プラス1運動」からはあらゆる場面において「できることから1つずつ」環境に配慮した活動をコツコツと続けています。その結果、1999年度には使用電力量を約5%、電気料金は約5,300万円削減することができました。

同じ年にISO14001(環境マネジメントシステムに関する国際規格)の認定取得への準備を進める中で生まれたのが「新設の公共施設すべて、また市内の全小中学校に太陽光発電設備を設置」という方針です。川越市では「地域新エネルギー導入促進計画」を策定し、市を挙げて協力・連携する一大事業を立ち上げました。独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「地域新エネルギー等導入促進事業」による助成も受け、2006年に設置を完了しています。

また、川越市では「エコチャレンジスクール認定事業」として学校版環境ISOの認定も行っています。児童生徒が創意工夫しながら環境に配慮した学校づくりに取り組むことで、日常的に環境問題について考える視点を養っています。

【参考資料】
川越市の取り組み|文部科学省
埼玉県川越市教育委員会|文部科学省
学校における太陽光発電導入の取組事例|文部科学省

まとめ

校内発電に取り組む学校や地方自治体の事例をご紹介しました。

ご紹介した事例は、主に太陽光パネルによる校内発電を実施している学校でした。学校に設置する発電設備として最も多いのは太陽光発電設備ですが、全国には風力発電や小水力発電、バイオマスや地熱による発電に取り組む学校も存在します。

自然エネルギーによる発電はその土地の環境や立地条件と深く関係しているため、どの発電方法が向いているか考慮に入れる必要があります。

校内発電は初期費用が高額であるため、一朝一夕に導入を決めるのは難しいかもしれません。すぐに導入できない場合でも、例えば「この学校ではどの発電方法が効果的だろう?」といったより身近な視点での環境学習のヒントになれば幸いです。

(ライター:佐藤 和代)


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