写真:那須豊原第一太陽光発電所。(自然電力HPより引用)
2020年6月4日、未来を創る組織のエコシフトを支援するOperation Green主催のオンライン講座の第3回を行いました!
エコシフトを実践する団体や企業の最前線で事業を推進するトップランナーを講師に迎えて全8回のこの講座の第3回の講師は、自然エネルギー100%の実現を目指し、自然電力株式会社を設立した磯野謙氏。
今回は「エネルギー消費」をテーマに、日本の自然エネルギーの現状や、自然エネルギー100%の社会を実現するための、未来の理想のあり方について教えていただきました!
1.気候変動の影響は自分の肌感覚で理解することがとても大事。磯野さんが生まれた長野県の村は、この30年でもう雪が降らなくなった。台風の大型化で災害も多くなり、海の水も温かくなっている。
気候変動は、食糧問題などあらゆる問題に結びついている。産業革命からの地球の平均気温の上昇を2℃以内、できれば1.5℃に押さえるには、この10年が極めて大事。
2.世界での4月初旬のCO2排出量は、コロナの影響で17%削減されているという報告もあった。人間の経済活動が環境に負荷を与えていて、それが止まることで経済は大打撃をうけるが、環境は改善していくことがこのコロナ禍で明らかになった。
3. エネルギー、食料、金融、医療、教育が地域で自給自足でき、その自立した地域ごとにつながる、分散型の「ミニマムグリッドな社会」が実現できると、再生可能な自然エネルギー100%の社会も実現できるといいのではないか。
当日の講座内容はこちらからご覧いただけます。ぜひどうぞ!
磯野さんが自然電力株式会社を設立したのは、東日本大震災が発生した2011年、ちょうど30歳のときでした。
当時、電力に対して様々な報道がありましたが、誰が解決するのか、どうすればいいのか先が見えないなかで
「より良い未来をつくるためには、人のせいにせず、自らが行動を起こし、本気で問題を解決していく必要がある」
という思いで、事業をスタートしました。
日本での自然エネルギーの発電量は10%未満、水力を入れても16%*です。これは今日本が自給できているエネルギーは16%、ということも意味します。
もしも自然エネルギーを日本中に増やしていけたら、海外から石炭や石油を購入する量は減ります。外国からの化石燃料の輸入に頼らず、経済的にも安全保障上も自立していけるようエネルギーの自給率を高めるには、「供給側だけではなく使う人が増えなければ」と磯野さん。
電気を使う私たちが化石燃料で発電される既存の電力を使い続けていては、未来は変えられないということ。しかし、一人一人が毎日使う電力会社を選ぶことで、未来を変えることができるのだと気づきました。
現代の大都市に人口が集中する社会では、たくさんの人に電気を効率的に送電するために大型の発電所が必要ですが、小さな地域コミュニティでは、その地域で自然エネルギーで発電し、電力を自給することも可能になります。
長野県小布施町では、すでにエネルギーを自給自足する取組みも始まっており
「電力も食料も地域で自給自足できるような、人口が都市に集中するのではなく分散する社会をつくっていくことが、これからの10年で重要なのではないか」
と磯野さんは参加者に訴えました。
*データ参照元:「2019—日本が抱えているエネルギー問題(後編)」(経済産業省資源エネルギー庁)
講座の後半では、話題は磯野さんの屋久島ライフに。
鹿児島県の屋久島は、日本では珍しい自然エネルギー100%を実現している島で、今回磯野さんは屋久島から登壇してくださいました。
磯野さんは約20年前から屋久島に関わっていて、自然エネルギーの素晴らしさをしったのも屋久島だったそうです。
現在、屋久島で過ごしている磯野さんが改めて感じているのは、今まで「人として生きる」ということにいかに向き合っていなかったかということ。
「目の前の海に魚を取りに行き、着るものは自分で藍染にチャレンジし、家も省エネのオフグリッドの家を自分で建て始めてみて、この生活がほとんどCO2を出さない生活であることに気づいた。1人1人が『生きる』ことにもっと向き合うことで、いろんな環境負荷が減っていくのではないか」
という磯野さんの話は非常に興味深く、「もっとその話が聞きたい!」という声が続出しました。
自然エネルギー100%の実現に取り組む磯野さんに、今回の講座ではいつも以上に質問が殺到!
自然エネルギーで発電した電気を、電力会社が一定価格で一定期間買い取ることを国が約束する「固定価格買取制度」が2019年11月以降、10年間の買取期間を順次満了し、市場環境が変わるなか、今後どのように事業を展開していくのか、今後再生可能エネルギー市場はどうなっていくのか、参加者の関心の高さが伺えました。
「自然エネルギー100%の社会は、電力をつくるだけではなく、多くの方に自然エネルギーを選んでもらい、使っていただかないと実現しない。そのために、価格が下がらないと利用者は広がらない」
という磯野さん。そこで、自然電力では利用者に「明日のでんき速報」を配信し、どの時間帯に電気代が安くなるかを案内。HPでも契約前に料金シュミレーションができるようになっており、「自然エネルギーに変えることで、電気代がどれくらい違うのか?」を確かめることができます。
ちなみに、Earth Companyでは以前、その料金シュミレーションを使ったシュミレーションレポートを公開しています。
このレポートで紹介している都内に住むAさんの事例では、自然電力へ切り替えることで年間1万円以上の節約ができ、地球だけでなくお財布にもやさしい結果となりました!(※地域や契約種別などによって結果は異なりますので、予めご了承ください)
まずは世界の現状を知ること。
そして自分にできる行動を選択すること。
それが大切だと教えてくださった磯野さん。未来のために、今小さな選択をし、行動を変えることの積み重ねが必要だと改めて感じました。
(レポート:Earth Company 小松紀子)
時間内に回答することができなかったたくさんの質問についても、自然電力さんが回答してくださったのでレポートの終わりに記載させていただきました。こちらもぜひご覧ください!
A:世界では、石炭や原発よりも再エネの発電所の建設規模の方が大きく、日本でも再エネの発電所が増えています。発電量でいうと、2010年は、太陽光や風力の新エネ等の割合が2.2%でしたが、2017年には8.1%まで増えています。
A:大規模な太陽光と風力の発電は、FITからFIP(フィードインプレミアム)制度に移行されます。今までは、再エネで発電した電力は、一般送配電事業者が買い取る義務となっていましたが、これからは発電事業者が販売先を自ら見つける必要があります。
なお、買取先がなくても、卸電力取引所という市場で販売することは可能です。FITで は、法的に決められた固定価格での買取だったのが、相対取引の相手と決めるか、市場価格での売電となります。ただし、太陽光/風力発電の必要な時に必要なだけ発電できないという特性から、相対や市場価格で十分に事業性のある価格で販売できる見込みが小さいことから、発電した電力量に応じてプレミアム(交付金)を受け取ることができます。
こうした制度によって、再エネ発電事業者は、電力市場についても理解しておくことや、電力取引等によるリスクも受容しないと新規の発電事業ができないということになります。これは、これまで電力取引上、特別扱いだった再エネを電力市場に統合させていく過程であり、再エネの自立には必要な措置と言えます。
ミニマムグリッドについては、防災や自立といった観点で、今後ますますニーズが高まっていくと考えられますし、蓄電池のコスト低下やデジタル技術による高度な制御により、利便性も高まり、今後も拡大し続けていくと考えられます。
A:まだまだ少ないので、もっと利用していただけるように頑張っていきます。
A:ひとつは系統接続。空き容量のひっ迫とと系統確保のためのコスト。もう一つは土地。細かく分かれていて、個人所有が多く、相続されていないなどの理由で使い難い土地が多いことがあります。
A:自然エネルギーに取り組んでいる他の会社とは、業界団体などを通じ、自然エネルギーが増やせるような制度設計の提言を国に行うなどの協業をしています。さらには、エネルギー以外の会社との協業、パートナーシップが重要と考えており、現在、様々な業界の企業と自然エネルギーを増やすための新しい挑戦を進めています。
A:東電PG様の試算など、少しずつ変わり始めています。
A:確かに、台風や洪水で被害を受けている太陽光発電所が多数あります。一部には、十分な強度がなく発電所も。そうした強度計算も行わず、粗悪な発電所が多いのも事実で、問題となっています。SEGは、建設も自ら行っていますが、基準以上の強度で施工し、メンテナンスも自ら行っており、大きな事故に至らないようにケアしています。
A:ドイツでバイオガス発電が多いのは、農家の副業として発電事業を推進するため、電力の買取価格が高かったことがあります。バイオガス発電の課題として、設備が発電量の割にコストが高いこと、残渣排水の処理や利用が必要になることがあり、日本では普及していません。(参照:https://shizen-hatch.net/2020/04/17/biogas/)
食品ロスの問題については、解決策はバイオガス発電だけではありません。堆肥化や飼料化も。何よりも食品ロスを少なくする取組が重要と思慮します
A:HATCHのこちらの記事をぜひご参照ください。
A:HATCHのこちらの記事をぜひご参照ください。
A:基本的に、自然電力では地域の合意のない開発は行いません。小布施では、景観に影響のない小水力発電の他、瓦型のデザインパネルの導入なども進めています。地域住民の方々の意向に寄り添い、話し合いを重ねて解を見つけることが大切と考えています。
A:気候変動について知り、自らの行動を変え、発信をすることかと思います。今はツイッターやchange.orgなどデジタルの恩恵もあり、ひとりひとりの声を届けやすくなっているのではないでしょうか。
A:政策について:細かくご説明をするとキリがないのですが、マクロ的に言うと、再エネ拡大には、①再エネ発電コストの削減、②再エネ設備の拡大、再エネ発電と需要の調整の3つが必要です。
①は、FIP制度が整備され、一旦はOK。
②は土地が使いにくい問題がある。これは、エネルギーだけでなく、都市開発、農業、林業などでも言える共通した日本の大きな問題。土地基本法を発展させて、土地利用を促進させる制度が必要。
③VPPなどで準備は進んでいますが、卸電力取引所の価格ボラティリティが小さく、ビジネスを進める動機が小さい状態なので、ボラティリティを大きくして、VPPの可能性を最大限引き出すことが必要。
消費者意識について:まずはエネルギーについての正しい情報を知っていただくことが重要と考えています。そこで自然電力では自社のメディア「HATCH」にて、自然エネルギーをはじめ、最新の情報を発信しています。ぜひご覧ください。juwi自然電力の代表・Janによるドイツと日本との再エネの違いのインタビューの中でも、消費者の方々の意識の違いについても言及があります。ぜひご一読ください。(https://shizen-hatch.net/2018/06/24/greenz_jan/)
A:価格も大切ですが、その会社の特徴やキャラクターを知った上で選ぶと長いお付き合いができて良いと思います。電気会社の変更自体は15分ほどで完了する簡単なものなので、ぜひ定期的に見直してみたりなど、電気に意識を向ける機会を作っていただけると嬉しいです。
自然電力株式会社 代表取締役 磯野謙
1981年長野県高山村生まれ。長野県、米ロサンゼルスで自然に囲まれた子ども時代を過ごす。大学4年次に30カ国を巡る旅に出て、そこで深刻な環境問題・社会問題を目の当たりにする。大学卒業後は、株式会社リクルートにて、広告営業を担当。その後、風力発電事業会社に転職し、全国の風力発電所の開発・建設・メンテナンス事業に従事。2011年6月自然電力株式会社を設立し、代表取締役に就任。慶應義塾大学環境情報学部卒業。コロンビアビジネススクール・ロンドンビジネススクールMBA。