コラム節水・雨水利用

日本の水資源の現状は? 節水に取り組む企業事例

2024.09.30

豪雨や台風のニュースを見ると、「日本は大量の雨が降るから水資源が豊富にあるんだな」と思う方も多いかもしれません。ゲリラ豪雨は頻繁に発生し、大雨による災害は各地に甚大な被害を及ぼしています。けれども、本当に日本の水資源は豊富なのでしょうか。

この記事では、日本の水資源の現状と節水に取り組む企業事例を解説します。節水をはじめ、企業の環境活動はCSRへの取り組みとしても有効です。オフィスですぐに始められる節水活動もあわせて紹介するので、ぜひご覧ください。

日本は水資源が豊富な国?

私たちが生活の中で使う水は、元をたどれば空から降ってくる雨や雪です。日本の年間総降水量は、約6,600億立方メートルといわれています。世界各国の平均降水量の約2倍なので、国土の狭さを考えても日本の降水量は確かに多いといえるでしょう。

けれども、その莫大な降水量をすべて生活に使えるわけではありません。およそ3分の1は蒸発散によって大気中の水蒸気になります。また、日本は山地が多く河川が短いこと、雨による降水が梅雨や台風の時期に集中していることなどから、残り3分の2の大部分は海に流れています。

実際に私たちが使える水は総降水量の約10%に過ぎません。さらに日本は人口密度が高いため、世界各国の平均の約2倍もの降水量があるものの、1人当たりに使える水の量は世界の人々の平均を下回ります。毎年たくさんの雨雪が降りますが、日本は決して水資源が豊かな国ではないのです。

【参考資料】
飲み水はどこから?使った水はどこへ? 暮らしを支える「水の循環」 | 政府広報オンライン
水資源の利用状況|国土交通省

「バーチャルウォーター」とは

水資源は決して豊かでないにもかかわらず私たちがそれほど水不足に悩まされないのは、大量の「バーチャルウォーター」を輸入しているからです。

バーチャルウォーターとは、輸入品を自国で生産すると仮定した場合に必要と推定される水量です。環境省が作成しているWEBサイトでは、食品輸入で発生しているバーチャルウォーターを次のように試算することができます。

  • ・パン(1枚)=96リットル
  • ・コーヒー(1杯)=210リットル
  • ・牛肉(300g)=6180リットル

日本は食料自給率が低く、食料輸入を通じてたくさんのバーチャルウォーターを輸入しています。

輸入先の国には、インドやパキスタンのように水資源が乏しい国もあります。私たちの生活は多くのバーチャルウォーターで成り立っていますが、水資源の格差を考えると決してサステナブルではありません。

よりサステナブルな社会を築くため、今すぐできるのが節水です。企業活動の中で使用している水の節約・効率化ができれば、限りある水資源を有効活用できます。

また、節水への取り組みは節電やCO2削減にも有効です。排水溝に流れた水を浄化するには、大量の電力を必要とします。使用水量の削減は浄化にかかる電力の節約に加え、その電力を発電する際のCO2削減にもつながります。企業活動や生活における少しの工夫も、持続可能な社会を作り上げる確かな一歩です。

【参考資料】
節水はなぜ必要?その理由と学校での過ごし方を学ぼう|Operation Green
第4章 水の星地球―美しい水を将来へ|環境省
virtual water|環境省

国内企業の節水への取組事例

効率化・無駄の削減で節水に取り組むキッコーマン

大手食品メーカーのキッコーマンは、2030年度までに「水の使用原単位30%以上削減(2011年度比)」を掲げています。製造過程で生じる水の使用を徹底的に見直し、適正化・効率化することで使用水量を削減しました。

例えば、千葉県野田市の野田工場では、製造工程のうちすすぎ・洗浄を見直しました。使用水量を調査したうえでプログラムを適正化・効率化したことで、従来の約44%の用水量に抑えています。この取り組みによって、工程時間も69分短縮できました。

また、業務用ケチャップを製造している日本デルモンテ群馬工場では、出荷用コンテナの洗浄方式を変更しました。2基のコンテナを同時に洗えるようになったことで、洗浄水を年間約2,500立方メートル削減しています。洗浄水の保温に使う燃料も少なくなったため、CO2排出量の削減も見込まれています。

【参考資料】
食の環境(水・森林)|キッコーマングループ
Ⅲ. 水環境の保全|キッコーマングループ
キッコーマン(株)|環境省

サプライチェーン全体の節水を目指すライオングループ


大手生活用品メーカーのライオングループでは、2019年に長期環境目標「LION Eco Challenge 2050」を策定しました。

この目標で「製品ライフサイクルにおける水使用量を30%削減(2017年度比)」と定め、サプライチェーン全体での節水に取り組んでいます。同年には、原材料の調達から生産、輸送、消費者による使用・廃棄までに使用される水量の算出、事業での取水量・排水量の把握を開始しました。

目標策定に先だち、2016年には千葉工場に新しい排水リサイクル設備を設置しています。製造工程で発生する洗浄水のリサイクルによって使用水量を年間18万トン削減(2023年度。2010年度比)、新しい排水処理設備によって赤潮の原因となる窒素の除去率を上げました。雨水を再冷却水として使ったり、花壇への水まきに活用したりと雨水利用も継続しています。

【参考資料】
環境目標と実績|ライオン株式会社
水使用量削減|ライオン株式会社

社員の環境教育に取り組む東亜ディーケーケー株式会社

東京都に本社を置く東亜ディーケーケー株式会社では、使用水量の管理と社員への環境教育を通して節水に取り組んでいます。各営業所には自動水栓や節水型トイレを設置、埼玉県狭山市の開発研究センターでは雨水利用システムでトイレ掃除用の水を確保するなど、各拠点でできることを着実に積み重ねています。

環境分析機器の開発・製造事業に取り組む東亜ディーケーケーでは、社員への環境意識の啓発活動も盛んです。新入社員研修には環境教育も取り入れ、水資源や地球温暖化について、また自社が取り組む環境活動の意義などを丁寧に伝えています。また、社員にはeco検定®(環境社会検定)の受験が奨励されていて、テキストや情報・資料の提供などのサポートを行っています。

社内季刊誌「ほいっぽ」では、自社のESG経営に向けた取り組みを情報共有しています。研修や検定受験のように座学やテキストでの環境教育に加え、現在の自社の活動について伝えることで社員の環境意識の向上に繋げています。

【参考資料】
地球環境 | 東亜ディーケーケー株式会社
サステナビリティレポート 2024|東亜ディーケーケー株式会社

サステナブルなホテル運営に取り組むJR東日本ホテルズ

関東地方で宿泊事業を運営するJR東日本ホテルズは、サステナブルなホテルづくりを目指して様々な工夫を行っています。ホテルの新築・改修の際は、客室内に節水型のシャワーヘッドやトイレを導入、レストラン厨房の水回りには節水コマや泡沫水栓を取り入れ、設備を順次節水仕様に整えています。

また、一部のホテルでは中水利用システムを設置し、厨房排水や雨水を再生利用しています。このシステムの導入によって、2023年度には約63立方メートルもの水を削減できました。

JR東日本ホテルズでは、多様な角度からサステナブルなホテル運営に取り組んでいます。例えば東京ステーションホテルでは、2023年6月から「CO2ゼロSTAY」の運用をはじめました。利用者が宿泊時に排出するであろうCO2量を算出し、その量に相当するカーボンオフセットとして環境企業・活動に投資しています。費用はホテル側が全額負担しており、運用開始から9か月でCO2約88トンのカーボンオフセットを行いました。

【参考資料】
環境活動への取り組み|JR東日本ホテルズ
JR東日本ホテルズのサステナビリティ・SDGsの取り組み

すかいらーくホールディングスの全従業員で取り組む節水活動

大手外食チェーンのすかいらーくホールディングスでは、全国の店舗・工場で従業員が一丸となって節水活動に取り組んでいます。

店舗では節水コマ・ノズルや節水型トイレの導入のほか、従業員教育による節水と衛生管理の両立を行っています。手洗いの手順ルール化・使用水量の設定に加え、オンライン研修やそれぞれの店舗の節水成功事例を全店に動画で紹介するなど、毎日の業務内で行う取組を多くの人に知ってもらえる仕組みを作りました。節水活動を推進する必要がある店舗では使用水量を見える化し、削減量の目標値も設定しています。

工場では、各工程の目的に合うように使用水量・使用時間の制御を行っています。また、高深度地下水や雨水の活用、洗浄水を再利用した工場内の清掃など、余分な使用水量を「発生させない」取り組みも多いです。自分たちにできることを徹底的に行うことで、環境に優しい事業運営を実現しています。

【参考資料】
水資源の保全|すかいらーくホールディングス
ESGにかかわる外部評価|すかいらーくホールディングス

オフィスでできる効果的な節水方法は?

オフィスでできる節水対策の1つとして、節水装置の導入が挙げられます。先にご紹介した事例では大型節水システムを導入した企業も多くありましたが、小規模の節水装置でも使用水量の削減は可能です。

例えば、社内のトイレを節水タイプのものに変更した場合、従来型と比べて約50%の水量を削減できます。水回りの蛇口に節水コマ・ノズルなどの流量調整装置を設置するだけでも、余分な水の使用を抑えられます。

節水設備の導入には初期費用がかかるうえ、定期的なメンテナンスが必要です。しかし、省エネ仕様の電気設備の導入は投資回収には3年半ほどかかるとされる一方、節水対策は約1年で導入費用を回収できるといわれています。企業の環境対策の中でも、節水は費用対効果が高い取り組みです。

また、現在社内でどのように水を使用しているか把握することも大切です。使用水量はもちろんですが、どのような場面で何のために水を使っているかモニタリングすると、思わぬ無駄を発見できるかもしれません。水道代の分析や設備の点検など、現状把握から開始するとよいでしょう。

社員1人ひとりができる具体的な節水活動としては、次のような行動があります。

  • ・歯磨きや洗顔時はコップを使用
  • ・水を出しっぱなしにしない
  • ・トイレの使用時間の短縮
  • ・残った水は花壇・鉢植えの水やりに活用

従業員の節水意識を高めるため、座学・実地研修による環境教育、ポスターや掲示板を活用した啓発活動・情報提供なども有効です。積極的な節水活動を奨励・表彰すると、社員のモチベーションも上がります。

【参考資料】
オフィスで取り組む節水事例、環境のために今すぐできること|Operation Green
節水家電は改善しているも人々の意識が低い?水量調節でエコな取り組みを!|Operation Green
節水機器 | デコ活(脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動)

まとめ

日本の水資源の現状と節水に取り組む企業事例をご紹介しました。

日本の水資源は豊富に感じられますが、国民1人あたりが本来使える水量は世界の平均を下回ります。日頃、水不足に悩まされる経験が少ないのは、食料などの輸入を通して大量のバーチャルウォーターを輸入しているからです。決して豊富ではない水資源を有効活用するために、企業でも節水活動に取り組んでいく必要があります。

ご紹介した5つの企業事例はその企業・業種だからこそ有効な取り組みなのではないかと感じた方もいるかもしれません。けれども、基本的な考え方や1つひとつの取り組みは、多くの企業で実践できます。ぜひ、自社の節水対策を考える際に参考にしてみてください。

(ライター:佐藤 和代)


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