コラム廃棄物

コロナ禍を経て必要な「使い捨て削減」とは?学校での事例

2024.09.26

今、みなさんがいる場所をぐるりと見回してみてください。改めて見てみると、思った以上に使い捨て製品が多いことに驚くはずです。ペットボトルやビニール袋、ティッシュペーパーなど、使い捨て製品は身近に溢れています。

この現状には、新型コロナウイルスの流行によって感染予防のために「使い捨て」が推奨されたことも大きく関わっています。使い捨て製品は確かに衛生的で、使用後の洗濯やメンテナンスも必要ありません。感染拡大を防ぐには、仕方ない面もあったでしょう。

しかし、使い捨て製品の大量生産・大量廃棄が環境に悪影響を及ぼすことは周知の事実です。ここでは、使い捨て製品の使用削減に取り組む学校の事例を紹介します。学校の特色や地域特性を組み合わせた活動の背景についても解説しているので、ぜひご一読ください。

コロナ禍で使い捨てプラスチックが急増?

2019年末から世界中で猛威をふるった新型コロナウイルスは、地球環境にも大きく影響を及ぼしています。感染拡大を防ぐため、不織布マスクやビニール手袋など衛生用品の使い捨てが奨励され、除菌用アルコールやペーパータオルなどの使用量も急増しました。不要不急の外出を控えるため、ECサイトやネットスーパー、フードデリバリーの利用も今までになく活発だったはずです。

感染症による生活の変化の結果、使い捨て製品やワンウェイプラスチックのごみが大量に排出されています。衛生用品の多くは、ポリエステルやポリウレタンなどのプラスチック製です。宅配便やフードデリバリーを利用すれば、発泡スチロールや食品パック、ビニール袋などの包装容器に商品が入っています。

例えば、厚生労働省の調べによると、2022年に国内で出荷された不織布マスクはおよそ600万枚にのぼります。不織布マスクはポリエステルやポリウレタンなどを原材料としているため、マスクのごみは廃プラであると考えられます。出荷量=使用量ではないとしても、大量の不織布マスクが使用・廃棄されたと推測できるでしょう。

これらの使い捨てプラスチックは、製造にも焼却処理にもCO2を排出します。また、廃プラの処理は埋め立てや投棄がほとんどです。1950年以降、世界中で廃棄されたプラスチックは63億トンにのぼるといわれていますが、そのうち約79%(49億トン)は埋め立て処分、または投棄によって処理されています。

細かくなったプラスチックが海に流出し、海洋生物を脅かす「海洋プラスチック」も大きな問題です。2020年のコロナ禍当初、世界中の海に流出した不織布マスクは15億6000万枚と推定されています。新型コロナが「5類感染症」に移行して1年が経った今、プラスチックをはじめとする使い捨て製品の削減が求められています。

【参考資料】
学校で脱プラスチック! マイボトル・給食のストローレス | Operation Green 循環型○○の実践プログラム
マスクや手袋、「コロナごみ」が海を脅かす。経済学者に聞く | 日本財団ジャーナル
I-1.医療用マスク・サージカルマスク(N95を除く)|厚生労働省
使い捨てプラスチック|国際環境NGOグリーンピース
プラスチック新法と消費生活|消費生活センター

「使い捨て削減」への2つのアプローチ


使い捨ての削減には、大きく分けて2つのアプローチがあります。

  • ・使い捨て製品そのものの利用を減らす(リデュース)
  • ・本来使い捨てである製品をリサイクル、またはリユースする

例えば、ペットボトルごみを削減したい場合、マイボトルや水筒を持参すれば使用量そのものを削減できます。このアプローチに対し、廃棄されていたペットボトルを回収してリサイクルしたり、何らかの用途で再利用したりする方法もあるでしょう。

品物や環境、用途によっては「衛生的に使い捨てが必要」「使い捨て製品のメリットが圧倒的に大きい」など、様々な条件が考えられます。やむを得ず使い捨て製品を利用する場合は、環境やSDGsに配慮した製品を選ぶのもおすすめです。間伐材・端材を利用した割り箸やフェアトレード製品など、人間と地球に優しい商品を探してみてください。

近年、従来のプラスチックではなく、バイオプラスチックや紙を使った使い捨て容器を導入する企業も増えています。環境に配慮しているように見えますが、代替品の過剰生産は「環境負荷がかかる部分を変えただけ」に陥りかねません。現に木材パルプの生産量は増加傾向にあり、森林資源の枯渇が懸念されています。

代替品を使い捨てるのであれば、環境保全とはいえません。「使い捨てる」という行動そのものを減らしていく、暮らしや意識の変化が求められています。

【参考資料】
プラゴミのリサイクルのために学校で何ができる?高校での取り組み事例を紹介!|Operation Green
小冊子「まなびあいブック」 | 環境省

使い捨て削減を目指す学校の取組事例

学園全体で環境負荷低減を目指す成蹊学園

東京都武蔵野市の成蹊学園は、小学校から大学まですべての学校段階で多様な環境活動に取り組んでいる学園です。資源の再利用や廃棄物削減、省エネなどを全学で実施し、毎年の成果を公式ホームページ上で公開しています。2023年度には廃棄物総量約19.1%減(-123,108㎏、前年度比)、リサイクル率は約88.3%を達成しました。

成蹊学園の環境負荷低減の状況をまとめたデータを見ると、年を追うごとに目標値を上げてより「環境に優しい学園」を実現していることがわかります。

例えば、2011年度の「用紙使用量」は、2008〜2010年の平均値に対して「2011〜2013年の平均値を1%削減」という目標を掲げていました。この目標に基づき、2011年は用紙使用量は約1506万枚(2.8%減)を達成しています。12年後の2023年度には、新たな基準である2018年度から18.7%減(約722万枚)にまで減少しました。

また、家庭科の調理実習では廃油を再利用した食器用洗剤を使用し、人間の食生活が環境に与える影響を学ぶなど、授業内容と関連した環境問題を知る機会を設けています。学生たちは、社会と地球環境の成員として自分にできることを学校生活を通して学んでいます。

【参考資料】
環境活動|成蹊学園
中学・高等学校の取り組み|環境活動
環境負荷低減の状況|成蹊学園

海岸清掃から脱プラ活動を始めた福井商業高校JRC部

福井商業高校のJRC部は、使い捨てプラスチックの使用削減を推進する活動に取り組んでいます。きっかけは、福井県坂井市の海水浴場「三国サンセットビーチ」の清掃活動です。砂浜に落ちているペットボトルやビニール袋などのプラごみの多さに驚き、地元で脱プラ啓発活動を始めました。

ビニール袋の使用削減のために行っているのは、「新聞袋」の提供です。持ち帰り用ビニール袋を購入する買い物客が使えるよう、新聞で作った紙袋を毎週地元のスーパーに届けています。部員が店舗に出向き、利用者に直接配布することもあります。新聞袋づくりを通して障害がある方と交流し、共同で配布活動を行うなど、他の活動と繋げて輪を広げています。

また、ペットボトル削減のため、マイボトルと水提供アプリ登録店の利用促進活動にも取り組んでいます。その一方で大手飲料水メーカーへのヒアリング・提案も実施し、企業の協力を得て校内の自動販売機に脱プラ対策ラベルの商品を導入しました。

【参考資料】
海の叫びが聞こえますか!|福井商業高校
令和5年度 魅力や価値を創造し発信する取り組み|福井商業高校
”気づき”を原点に広がる活動|サステな!2030
海洋プラスチックごみ削減のための学校での取り組み!生徒がすぐに実践できる方法は?|Operation Green

廃油とプラごみで電気をつくる堺工科高校定時制課程

堺工科高校は、古くからものづくりが盛んな大阪府堺市にある工業高校です。定時制課程の「エコ・プロジェクト部」では、廃油やプラスチックごみを使って発電できるバイオディーゼル発電機を製作しました。

堺工科高校では、地元の特産品である包丁や線香を授業で製作し、東日本大震災の被災地に届ける活動を行ってきました。被災した方々から地震直後の電力確保の難しさを聞いて開発したのが、使用済みの食用油で動くバイオディーゼル発電機です。1リットルの廃食油で約1時間発電できるため、広く普及すれば被災時の強い味方となるでしょう。

さらに、発電機の燃料とするため、ペットボトルのキャップを油化する「プラスチックごみ油化装置」も開発しました。企業の協力を得て、万が一化学物質が揮発したときは警告音を発し急停止するシステムを組み込み、より実用化しやすい設計を実現しています。使用済み油やプラスチックをそのまま廃棄せず電力源とする点に加え、活動が学生の技術力向上につながる点も高く評価される取り組みです。

【参考資料】
捨てればゴミ、活かせば資源」プロジェクト ~美しい地球を次世代に
05 脱炭素2022 大阪府立堺工科高等学校 定時制の課程|YouTube

余市市と余市養護学校の「みつろうラップ」作り

北海道の余市養護学校が取り組んでいるのは、余市市独自の「Yoichiタータン」を使ったみつろうラップ製作です。作業学習の時間に製作したみつろうラップは、余市観光協会を通して販売し、売上の一部を学校が寄付という形で受け取っています。

みつろうラップとは、蜜蝋のビーズを熱で溶かして布に染みこませた布製ラップです。プラスチックを使用せず洗って繰り返し使えるうえ、蜜蝋の抗酸化作用によって食品を長持ちさせる効果もあります。

余市市は、2014年のNHK連続テレビ小説「マッサン」のモデルとしても知られるニッカウヰスキー株式会社の創業の地です。1988年には、スコットランドの現イースト・ダンバートンシャイア市と姉妹都市協定を結んでいます。「Yoichiタータン」は、スコットランドとのつながりを生かすべく開発された余市市独自のタータンチェックです。

この取り組みは、余市養護学校が「みつろうラップ製作が、生徒たちの『社会参加』にならないか」と観光協会に持ちかけたことから始まりました。

余市観光協会は「Yoichiタータン」を使った商品製作を提案し、さらに「社会参加」を生徒に実感してもらえるように売上の一部を学校に寄付する仕組みを整えました。養護学校の生徒が製作したみつろうラップは、余市市の土産物店ほか観光協会のオンラインショップでも販売されています。

【参考資料】
可愛い蜜蝋ラップからはじまる、みんなが楽しく取り組める ゴミ削減のファーストステップ!|地方創生SDGs
【読み物】輝く笑顔から生まれる『Yoichiタータン みつろうラップ』 |余市観光協会
Yoichi Tartan – 余市観光協会公式WEBサイト

まとめ

使い捨て製品の使用削減に取り組む学校の事例を紹介してきました。

使い捨ての製品は、誰にとっても身近な存在です。新型コロナウイルスの流行を経て、使用量は急増しています。コロナ感染症が5類に移行した現在、改めて地球環境のために使い捨て削減への取り組みが必要です。

使い捨てが誰にとっても身近だからこそ、削減活動に取り組みやすいともいえます。各学校段階や地域特性、学科・コースで学んだ技術を活かした独自の取り組みが可能です。ぜひ、「この学校だからこそできること」を見つけてみてください。

(ライター:佐藤 和代)


TAGS: SDGs,アップサイクル,エシカル,サステナブル,プラスチック削減,ペーパーレス化,マイボトル運動,リサイクル,リユース,学校,導入事例,