2015年の「パリ協定」採択後、世界各国が「2050カーボンニュートラル」を合言葉に温室効果ガス削減に取り組み始めました。2050年までに温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡(=ニュートラル)にして地球温暖化を食い止めるため、政府は日本でもさまざまな対策を実施していくと2020年に明言しています。
カーボンニュートラルに向けた仕組みの1つが「カーボン・オフセット」です。日々の生活や事業活動でどうしても排出してしまうCO2を、環境活動への投資によって「実質ゼロ」にするため、企業だけでなく学校で取り組むケースも増えています。
この記事では、カーボン・オフセットに取り組む学校の事例を解説します。私たちが毎日どの程度のCO2を排出しているか算出する方法もご紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
カーボン・オフセットは、企業・団体や個人が取り組むCO2削減の中でどうしても発生するCO2排出量を埋め合わせる(オフセット)制度です。カーボン・クレジットの購入や環境事業への投資などによってCO2排出量を相殺します。日本では2009年3月に環境省が認証基準を定め、本格的に開始しました。
カーボン・オフセットに使われるのが「カーボン・クレジット」です。企業や団体が排出削減・吸収した温室効果ガスを、国の認証を受けて「J-クレジット」として購入・売却することでCo2排出量を取引します。このシステムによって、事業活動の中で排出を避けられなかったCO2量を他団体からのクレジット購入で埋め合わせることができます。
現代社会では、CO2をまったく排出しない事業は困難です。可能な限り温室効果ガスの発生を減らしたうえで、クレジットの購入によってカーボンニュートラルの実現を目指しています。
しかし、考えようによっては「クレジットを購入すれば、温室効果ガスを排出できる」と捉えられかねません。このため、EUは「2026年からカーボン・オフセットを謳う商品・サービスの規制を強化する」と発表しました。「環境に配慮している裏付けがなければ、カーボン・オフセットとは認めない」方針に切り替えています。
【参考資料】
カーボン・オフセットとは?簡単にわかりやすく取り組み事例とともに解説!|Operation Green
J-クレジット制度
全国のカーボン・オフセット事例紹介|J-クレジット制度事務局
愛知県名古屋市の県立南陽高校には、地元企業や店舗の依頼を受けて商品開発に取り組む「Nanyo Company部」があります。開発した多くの商品に、カーボン・オフセットやフェアトレードなどプラスアルファの価値をつけて企画・販売している部活です。
名古屋市は「フェアトレードタウン」として、街を挙げて開発途上国の生活水準向上を支援しています。Nanyo Company部が2014年に開発したチョコレート菓子は、カーボン・オフセットとフェアトレードを両立した製品です。フェアトレードのカカオニブを使用したお菓子で、商品1つ当たり約2.2円をカ-ボン・オフセットに利用しています。この取り組みは、2014年「第5回カーボン・オフセット大賞」で特別賞を受賞しました。
開発した製品の製造〜販売で発生する温室効果ガス相当量を、カーボン・クレジットの購入で相殺しています。購入先には地元周辺の団体を選ぶなど、途上国と地域環境の支援を両立している取り組みです。
【参考資料】
愛知県立南陽高等学校
【第5回 カーボン・オフセット大賞】 受賞団体の取組概要|環境省
愛知県立南陽高等学校|イオン エコワングランプリ
東京都大田区の都立つばさ総合高校は、2004年に都立高校として初めて「ISO14001」の認証を取得しました。省エネ活動やゴミ・資源の細かな分別、広報紙の発行など、環境活動に積極的に取り組んでいる高校です。ISOを取得した2004年からは、校内のISO推進委員会が主体となって「高校生環境サミット」を主催しています。
サミットには、環境問題に取り組む高校・大学生、企業や団体職員などを招待し、基調講演や意見交換会などで交流しています。2013年から3年間は、サミット開催による温室効果ガス排出量をJ-クレジット購入によってオフセットしていました。
クレジットの購入先は、来場者の投票によって決定します。候補先となっている団体にも出向いて話を聞き、事業内容をパネル展示などで紹介して投票のきっかけも作りました。クレジット購入は2016年で休止しましたが、現在も毎年11月にサミットを開催して環境活動の輪を広げています。
【参考資料】
特色|東京都立つばさ総合高等学校
高校生が学び伝える、環境のこと|カーボン・オフセット取組紹介
「生徒のアイディアではじまった環境サミット~国際環境規格ISO14001を活動のちからに~」東京都立つばさ総合高等学校|環境展望台
鹿児島環境・情報専門学校は、企業の即戦力となる環境意識の高い学生の育成に取り組む専門学校です。校内設備にもさまざまな環境対策を施し、可能な限りのCO2削減に取り組んだ結果、1年間のCO2総排出量相当のJ-クレジットの購入でカーボンニュートラルを達成しました。
例えば、次の設備導入によってCO2排出量を削減しています。
上記の対策をとったうえで、発生が避けられなかったCO2量を学生が算出し、学校がJ-クレジットを購入しました。この取り組みを地域にも広めるべく、カーボン・オフセット体験イベントの開催など周辺住民に向けた環境啓発活動も実施しています。
【参考資料】
カーボン・オフセットを通じた “人材育成”と“地域とのつながり”
カーボンオフセット取得!
カーボン・オフセットからは少し外れますが、CO2排出量の実質ゼロを目指す学校もご紹介します。
三重県津市にある高田中学校・高校では、地元企業や名古屋産業大学と協力して産学連携の環境教育を実施しています。校内におけるカーボンニュートラル「ゼロカーボンスクール」の実現が目標です。
校舎の屋上には二酸化炭素濃度測定器を設置し、周辺地域のCO2濃度を24時間モニタリングしています。得られたデータは、名古屋産業大学の「二酸化炭素濃度常時測定ネットワークシステム 」に提供しています。さらに、生徒たちはデータの収集・分析にも取り組み、市の環境イベントなどで発表の場を設けています。
学校HPや校内のモニターでは、現在のCO2濃度をいつでも確認できます。データをもとに小中学生向けの学習動画を作成し、樹木や森林がもつCO2貯蔵能力をわかりやすく伝えるために理解を深めるなど、カーボンニュートラル達成に向けて次世代を意識した活動も多いです。
もう1つの目標は、学校の母体である真宗高田派の本山・専修寺のOECM(Other Effective area-based Conservation Measures)登録です。
2010年、名古屋で開催されたCOP10(生物多様性条約締約国会議)で提唱されたOECMは、里地里山や企業林・社寺林のように地域・企業・団体によって生物多様性の保全が図られている土地のことです。高田中学校・高校ではOECM登録を目指し、専修寺の寺院林の生態系調査を続けています。
【参考資料】
高田中・高等学校
高田中学校・高等学校|ユネスコスクール
二酸化炭素濃度常時測定ネットワークシステム|名古屋産業大学
人と自然の共生地域OECM|日本自然保護協会オフィシャルサイト
J-クレジット制度を利用してカーボン・オフセットをする方法は、主に次の5つです。
活動によって生じるCO2量は、活動量 × 排出原単位で簡易的に求められます。例えば、文化祭で軽食を販売した場合、活動量として次のものが挙げられます。
この活動量に、排出原単位(原料やエネルギーごとに規定された単位当たりのCO2排出量)をかけます。排出原単位は環境省などが公表しているデータベースで確認できるので、ぜひ一度ご覧になってみてください。
【参考資料】
目指せ脱炭素社会!学校や地域の取り組み事例 | Operation Green 循環型○○の実践プログラム
学園祭 カーボン・オフセット マニュアル|東京都市大学
第3章 学校における環境負荷を把握しよう!|石川県
排出原単位データベース | グリーン・バリューチェーンプラットフォーム | 環境省
教育現場でカーボン・オフセットに取り組む方法について、国内の学校の事例とともにご紹介しました。
現実問題として、CO2をまったく排出しない企業活動・学校生活はかなり困難です。私たちは、気付かないうちに大量のCO2を排出しながら暮らしています。
日々の生活の中でどれほどのCO2を排出しているのか実感するには、ご紹介した方法で計算してみるのがおすすめです。学校生活全体でなくとも、例えば今朝の朝食や授業1コマ分だけでも、思い返して計算してみるとよいでしょう。「算出した量をオフセットするには?」など、クラスで話し合ってみてください。
(ライター:佐藤 和代)