コラム再生エネルギー社会・環境基盤

地域エネルギーとは?「電力の地産地消」を目指す企業事例

2024.11.28

地震や台風・集中豪雨など、近年日本は多くの災害に見舞われています。災害時、大きな問題となるのがエネルギーの供給です。従来の火力発電や原子力発電のように、1つの発電所から広範囲に電力を供給するエネルギーシステムの脆弱性が浮き彫りとなってきました。

このような現状を抱える現在、「地域エネルギー」の活用が注目されています。その地域に存在している資源を使って複数の場所・発電方法を組み合わせたエネルギーシステムは、災害時の柔軟な対応を可能にします。

2020年に「2050年カーボンニュートラル」を宣言した日本政府は、経済産業省を中心に地域の主体的なエネルギー事業を推進しています。地域エネルギーの活用は、温室効果ガスや廃棄物の削減、またエネルギー自給率の向上にも貢献できる取組です。

この記事では、地域エネルギーの活用に取り組む企業事例をご紹介します。それぞれの事例を紹介した後、各企業が導入したエネルギーシステムについて詳しく解説しますので、ぜひご覧ください。

地域エネルギーとは?

地域エネルギーとは、その地域に存在するエネルギー資源を効率よく活用して、消費する電力を地域内で安定的に得ようとするエネルギーシステムです。

地域に存在するエネルギー資源には、次のようなものが当てはまります。

・太陽光・太陽熱
・風力
・中小水力
・木質・畜産・廃棄物などのバイオマス
・地熱・温泉熱、地中熱
・雪冷熱 など

地域エネルギーシステムでは、その地域の特徴を踏まえたうえでさまざまなエネルギー供給源を組み合わせ、「地域にとって最も効率的」に活用することでエネルギー供給のリスク分散やCO2排出量の削減を図ります。

地域エネルギーのように、比較的小規模の発電設備が地域内のさまざまな場所に分散しているエネルギーシステムを「分散型エネルギーシステム」といいます。従来の火力発電所・原子力発電所のように、電力を使用する土地から離れた場所で発電する「大規模集中型エネルギーシステム」の相対的な概念です。

大規模集中型エネルギーシステムでは、1カ所からのエネルギー供給に頼っているため、非常時の対応が問題となっています。複数のエネルギー供給源を組み合わせて活用していれば、災害時にもフレキシブルな電力確保が可能です。

また、分散型エネルギーシステムでは、これまでエネルギーを使う側だった消費者が供給側に回ることができます。例えば、地域エネルギーのうち住民の出資によって作られた「市民エネルギー」は、住民がエネルギー供給に参加できる1つの方法です。エネルギーの需要と供給の関係をより柔軟にすることで、より非常時に強い社会を築ける可能性があります。

【参考資料】
地域エネルギー会社や市民エネルギーを利用した理想的な町へ | Operation Green 循環型○○の実践プログラム
知ってる?「電力の地産地消」|資源エネルギー庁
知っておきたい経済の基礎知識~S+3Eって何?|経済産業省
分散型エネルギーについて|資源エネルギー庁

事例① ソーラーシェアリングに取り組むハウステンボス株式会社


長崎県佐世保市のテーマパーク、ハウステンボスでは「ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)」に取り組んでいます。2018年度に、環境省の「再生可能エネルギーシェアリングモデルシステム導入事業」の補助金を利用して設備を導入しました。

ハウステンボスでは、約2300㎡のブルーベリー畑の上部に太陽光パネルを設置しました。発電した電力は園内で自家消費しています。また、育てたブルーベリーも園内の飲食店で夏季限定メニューとして来園者に提供したり、摘み取り体験イベントを実施したりと有効活用しています。

このブルーベリー畑には、自動灌水システムも導入されています。太陽光パネルの導入当初、この自動灌水システムと併存する方法が課題となっていました。ハウステンボスでは、パネルの上に反射ネットを張ることで十分な発電量を確保することができました。

ハウステンボスは、開業当初から「持続可能な開発」を目標としているテーマパークです。2008年に太陽光発電システムを設置し、2020年には宿泊者送迎用のEVバスを導入しました。園内ではリーフレタスやベビーリーフも栽培しており、ブルーベリーと同じようにレストランで消費しています。

【参考資料】
直近の取組み|サステナビリティ|ハウステンボス
SDGsへの取り組み|ハウステンボス
ハウステンボスでブルーベリー摘み|ハウステンボス
ハウステンボスから始まる地産地消日本初の自家消費型ソーラーシェアリング・ブルーベリー観光農園|PR TIMES

ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)とは

ソーラーシェアリングは、作物を育てながら同じ農地で太陽光発電ができる技術です。

植物の光合成において、日光吸収量の限界値を「光飽和点」といいます。光飽和点を超えた日射量は植物の生育に関わらないうえ、葉焼けなどのダメージを与えることすらあります。

ソーラーシェアリングは、この光飽和点を超えた太陽光を利用して発電します。農地に支柱を立てて作物の上部に太陽光パネルを設置し、余分な日射量を発電にいかす仕組みです。

導入する際は、作物の生育に必要な日射量を確保できるように発電設備を設置します。また、ソーラーシェアリングに向いている作物かどうかの見極めも重要です。ハウステンボスで育てているブルーベリーは、比較的ソーラーシェアリングに向いている植物といえます。

小規模の太陽光発電設備に適用される「FIT制度(固定価格買取制度)」では、発電量の一部を自家消費しなければならない「地域活用要件」が設けられています。しかし、ソーラーシェアリングにおいては免除されているため、全発電量をの販売が可能です。ハウステンボスのような自家消費ももちろん可能なので、企業や事業内容にあった方法で地域エネルギーを導入できます。

【参考資料】
営農型太陽光発電について|農林水産省
ソーラーシェアリングの魅力|神奈川県
自家消費型営農型太陽光発電観光農園事業|資源エネルギー庁

事例② 京都リサーチパークのコージェネレーションシステム導入


京都市下京区の京都リサーチパークは、1989年に開設されたベンチャービジネスや研究開発を支援するサイエンスパークです。2021年に完成した10号館には、環境への配慮やBCP(事業継続計画)の強化策として「ガスコージェネレーションシステム(熱電併給)」を導入しています。

ガスコージェネレーションシステムでは、ガスエンジンなどの原動機を動かして発電するとともに、同時に発生した熱や温水も有効活用します。リサーチパーク10号館には、停電時のブラックアウトスタートも可能な1000kWのシステムを採用しました。浸水のリスクを考え、監視盤室や主配線盤室を2階に、コージェネ設備などは屋上に設置しています。

排熱は空調として利用、排出された温水も熱交換器で使用したり、床放射冷暖房用の冷水製造に用いたりと、発生したエネルギーを無駄にしない仕組みを整えました。コージェネレーションシステムの導入によって、建物そのものの省エネ性能の向上、電力のピークカットによるコスト削減なども図っています。

京都リサーチパークでは、パーク内の「京都ガスビル」にもガスコージェネレーションシステムを導入しています。リサーチパーク全体の省エネやBCP性能の向上を目指し、将来的にはコージェネレーションシステムで発電した電力を施設間で融通できる仕組みを整える計画です。

【参考資料】
「KRP10 号館」竣工|京都リサーチパーク
京都リサーチパーク10号館|コージェネ財団

コージェネレーションシステム(熱電併給)とは

コージェネレーションシステムとは、天然ガスや石油、LPガスを使ってエンジンやタービンを動かして発電し、生じた排熱も回収して無駄なく利用するエネルギーシステムです。総合エネルギー効率が高く、燃料本来のエネルギーの約7~8割を利用できます。

コージェネレーションシステムでは、電力を実際に使用する場所の近くに発電装置を設置します。従来の大型発電所は需要地から遠く離れた場所にあるため、電力と同時に発生する熱の利用はほとんどできませんでした。コージェネレーションシステムを導入すると、廃棄されていた熱エネルギーを有効活用できます。

また、大型発電所から需要地に電力を送る場合、その過程で消費される電力が発生します。コージェネレーションシステムでは、このような「送電ロス」がほとんど生じません。エネルギーを無駄なく活用できるコージェネレーションシステムは、省エネや温室効果ガス削減にも有効なエネルギーシステムです。

【参考資料】
知っておきたいエネルギーの基礎用語~「コジェネ」でエネルギーを効率的に使う|資源エネルギー庁
コージェネの基本形態|一般財団法人 コージェネレーション・エネルギー高度利用センター

事例③ 東急リゾートタウン蓼科によるバイオマスエネルギーの活用

長野県茅野市の「東急リゾートタウン蓼科」は、2020年にバイオマスボイラーの運用を開始しました。事業の一環で取り組んでいる森林整備によって発生する間伐材をチップにし、バイオマスボイラーの運転に利用しています。

バイオマスボイラーには、オーストリア・ETA社の自動運転式チップボイラーを2台採用しました。地元の森林組合によって伐採された間伐材は、月に1度協力会社の移動式チッパーでチップ化しています。チップボイラーによって生まれた熱エネルギーは、「蓼科東急ゴルフコース」内浴室の給湯設備などに利用されています。

東急リゾートでは、周囲の豊かな森林資源を活用した地域活性化「もりぐらしプロジェクト」に取り組んでいます。バイオマスボイラーの導入は、茅野市から地域活性化につながる事業と認められたため、環境省「再エネ電気・熱自立的普及促進事業」によって対象経費のうち3分の2の補助を受けることができました。バイオマスボイラーの導入によって、給湯用の灯油に由来するCO2削減が可能になりました。

【参考資料】
サステナビリティ|東急リゾーツ&ステイ
森林のバイオマスエネルギー活用による地産地消エネルギーモデル|資源エネルギー庁
事業概要|二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金(再生可能エネルギー電気・熱自立的普及促進事業)|公益財団法人 日本環境協会

バイオマスエネルギーとは

「バイオマス」とは、間伐材や家畜の排泄物、食品廃棄物など、生物由来の資源を指します。東急リゾートの事例では、バイオマスを直接燃焼して発生する蒸気熱を利用していました。そのほかには、固体・液体燃料の製造や「ガス化」によってエネルギーを生み出す方法もあります。

バイオマスエネルギーは、使用そのものにはCO2が発生します。しかし、CO2を吸収して生育した木材などを資源として利用するため、CO2排出量を相殺できるカーボンニュートラルな資源だと考えられています。また、バイオマスは中山間地域に存在していることも多いため、エネルギーとして利用する産業を確立できれば地域活性化に役立つ可能性もあるでしょう。

バイオマス利用のデメリットは、資源が各地に分散しているため収集・運搬などにコストがかかりやすい点です。東急リゾートの事例では、木材チップから自社で生産することで輸送費用の削減に成功していました。地域内に眠るバイオマスをどのように活用するか、工夫を凝らす必要があります。

2013年度から、政府はバイオマスを活用した地域産業の創出・循環型エネルギーの強化に取り組む自治体を「バイオマス産業都市」に認定しています。2024年2月末時点で103市町村が選定されました。エネルギー自給率の低さや地方衰退など、現在抱える課題を解決する可能性があるとして政府も力を入れています。

【参考資料】
知っておきたいエネルギーの基礎用語~地域のさまざまなモノが資源になる「バイオマス・エネルギー」|資源エネルギー庁
バイオマス発電|なっとく!再生可能エネルギー|資源エネルギー庁
バイオマス産業都市の取組|農林水産省

まとめ

地域エネルギーの活用に取り組む企業事例をご紹介しました。

2015年のパリ協定締結後、世界各国は温室効果ガス削減に向けてさまざまな対策に取り組んでいます。カーボンニュートラルを目指す取組の中でも、災害が多くエネルギー自給率が低い日本が特に推進していきたいのは、地域エネルギーの有効活用ではないでしょうか。

環境問題や災害対策だけでなく、地域エネルギーは地域活性化や雇用創出、事業の発展や魅力向上も期待できる取組です。地域とつながる新しい方法として、ぜひ検討してみてください。

(ライター:佐藤 和代)


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