2024年の世界平均気温は産業革命前に比べて1.5℃以上高くなる見通しが「コペルニクス気候変動サービス」により発表されました。世界各国は今後ますます温暖化対策に真剣な取り組みが求められることが予想されています。
そうした中で温暖化の原因となる、温室効果ガスの削減は最重要課題となり、省エネや再生可能エネルギー導入への動きが加速しています。しかし一方で温室効果ガスの排出量をただちにゼロにすることは現実的に難しい状況であり、J-クレジット制度のようなカーボンオフセットシステムの導入が進められ始めています。
この記事ではJ-クレジット制度について、概要や利用方法、購入するメリットなどを実例とともにわかりやすく解説します。
【参考資料】
2023年の世界の平均気温。観測史上最高を更新|一般社団法人環境金融研究機構
最初にまずJ-クレジット制度の概要や仕組み、導入への背景などを解説します。
J-クレジット制度は日本国内で排出された温室効果ガスと、森林などで吸収された温室効果ガスをクレジットとして取引するための制度です。もともとは国内クレジット制度とJ-Ver制度という2つの制度を統合してJ-クレジット制度となりました。
・国内クレジット制度
京都議定書の温室効果ガス削減目標達成のために平成20年に閣議決定された制度。大企業などが中小企業に対して資金・技術支援して、それによる温室効果ガス削減量を国が認定する取り組み。
・J-Ver制度(オフセット・クレジット)
環境省が企業などの自主的な温室効果ガス削減量を認定し、市場でクレジット取引を行い温室効果ガス削減活動を推進するための制度。
J-クレジット制度は経済産業省・環境省・農林水産省が共同で運営する制度で、国が認証することで信頼性ある取引ができる制度として、大企業を中心に活用する動きが出始めています。
【参考資料】
J-クレジット制度について|J-クレジット制度
J-クレジット制度は国内のCO2など温室効果ガスの排出量と削減量を事業者間でオフセットする仕組みです。
具体的にはJ-クレジットを創出した側の創出者と、購入者側が市場でJ-クレジットを売買することで資金が環境問題に貢献する事業などへ循環します。
・J-クレジット創出者
温室効果ガスを再生可能エネルギーや植林活動、省エネ設備の導入により削減した事業者。
中小企業や農業関係者、森林保有者、地方自治体など。
・J-クレジット購入者
事業活動により温室効果ガスを排出した大企業や中小企業など。
温対法や省エネ法の報告や、海外企業との取引、経団連カーボンニュートラル行動計画の目標達成などのためにクレジットを購入する。
J-クレジットで認証を受ける排出削減量は、「ベースライン排出量」と「プロジェクト実施後排出量」の差分となっています。
例えば工場の生産設備を省エネ仕様に更新した場合は、更新前後の設備で減少した分の排出量をJ-クレジット登録簿システムで認証を受けることが可能です。
【参考資料】
J-クレジット制度について|J-クレジット制度
J-クレジット制度の登録プロジェクト件数は2023年度が608件であり、前年度比で約30%増加しました。また認証されたクレジット量も同様に増加を続けており、2023年度には844万tのCO2が認証を受けています。
このようにJ-クレジット制度が注目されている理由は、パリ協定で世界各国が世界平均気温の上昇幅を1.5℃以内に抑えるという目標を設定したことがきっかけになっています。そのために日本政府は2050年に温室効果ガス排出量を実質ゼロにするカーボンオフセットに取り組む目標を掲げており、国内の企業や自治体など事業者は温室効果ガスの削減活動を進めることが急務となりました。
一方で排出量をゼロにすることは現実的に難しいため、カーボンオフセットが可能になるJ-クレジット制度の活用が注目されています。
J-クレジット制度の利用方法は以下の通りです。
1.温室効果ガス削減プロジェクトを計画する
J-クレジット制度に参加するためには、省エネ設備への更新、再生可能エネルギー導入、植林など森林活用など温室効果ガスのを削減プロジェクトを計画・実践します
2.制度事務局へ相談する
計画・実践したプロジェクトをもとにJ-クレジット制度事務局に相談して登録方法などを確認します
3.支援の内容・対象を確認する
プロジェクトの登録や報告時に必要な申請書作成サポートや、費用支援について確認します
4.プロジェクトを登録する
作成したプロジェクト計画書をもとに審査を受けて承認されると登録が完了します
5.プロジェクト中にモニタリングして報告する
プロジェクト計画書で設定した通り、温室効果ガスの削減量をモニタリングして報告書を作成してプロジェクト完了後にクレジット認定を受けます
6.J-クレジットを活用して売却する
認定されたクレジットを市場で売却して資金を受け取ります
【参考資料】
J-クレジット制度について|J-クレジット制度
J-クレジット制度を活用している企業はまだ多くないので、導入事例をプレスリリースすることで環境先進企業としてPRすることが可能です。環境問題に積極的に取り組んでいる企業として、関係会社や一般消費者にアピールすることで新たな取引や顧客が生まれるかもしれません。
また近年はESG投資家が増えているので金融市場で資金調達する場合でも、J-クレジット制度を活用してカーボンオフセットに取り組む企業の方が有利になる可能性があります。
J-クレジット制度を活用する企業はCO2排出がコストとなるため、削減活動に積極的に取り組む必要があります。
CO2排出削減を進めると、商品の輸送経路を最短経路に見直したり、工場設備の省エネ化を進めるなどにより無駄な固定費を削減できます。また先進的な環境技術に取り組む事業は国の補助金制度があるため、設備投資や研究開発費用を削減できるメリットがあります。
近年、欧州などの環境先進企業は取引先に対して温室効果ガスの削減目標を要求する動きが活発化しています。そのためグローバルな事業展開をしている大企業は、取引継続のためにはJ-クレジット制度を利用してカーボンオフセットを進める必要が出ています。
考え方を変えれば、環境の変化をビジネスチャンスとして積極的にJ-クレジット制度を活用し、カーボンニュートラル達成をアピールすることで海外取引先と新たなビジネスチャンスに繋がる可能性があります。
ここでは実際にJ-クレジット制度を利用したカーボンオフセットの事例を紹介します。
北海道砂川市では「海ごみゼロ・CO2ゼロ作戦in砂川オアシスパーク」という名称で、公園内に散乱したプラごみなどを回収する美化活動に取り組んでいます。
そして2024年4月から2025年3月までに回収したプラごみなど廃棄物4トンをごみ処理する際に出るCO2を、芦別市のJ-クレジットと相殺するカーボンオフセットを実施しました。
環境保全と温暖化問題という2つの面で環境問題に貢献できる取り組みとなりました。
新潟県にある第四銀行は県内に121の店舗を持つ老舗の銀行で、2010年から「だいしエコアクション」と呼ぶ取り組みを進めてきました。取組みではエコ商品の提供や、森づくりなどの環境保全活動など地域の環境対策に貢献してきた実績があります。
その一環として取り組みを開始した「グリーンATM」は、利用するごとにカーボンオフセットに参加できる画期的なアイデアを取り入れています。具体的にはATMの消費電力からCO2排出量を算定し、利用1件当たりの排出量を20gとして総排出量約40トンをJ-クレジット制度でオフセットしました。
購入したクレジットは「トキの森整備事業」と「柏崎市ガス水道局における下水処理場へのバイオガス発電機導入プロジェクト」に活用されて、県内の環境事業へ投資されて地域貢献に役立てられています。
【参考資料】
あなたのATM利用が環境貢献へ!|J-クレジット制度
長崎県諫早市にあるヤベホーム株式会社は、環境や人にやさしい家づくりを行うハウスメーカーです。国産ヒノキや高千穂のシラス壁などを利用していて、自然素材の健康・省エネ建材を100%取り入れるこだわりがあるメーカーです。
さらにヤベホーム株式会社は「カーボンオフセット住宅」として、1棟の住宅が生活によって排出するCO2の1年分をカーボンオフセットする取り組みを開始しました。1棟の排出するCO2は年間で約6トンで、対象となる16棟から出るCO2の合計96トンをJ-クレジット制度を利用してカーボンオフセットしています。
「カーボンオフセット住宅」の特徴は、従来の住宅に比べて半分程度までCO2排出量を削減する工夫が取り入れられている点です。
具体的には断熱材に木質繊維系のセルロースファイバーを使い石油製品の使用を抑えたり、エアコンに「こまめにスイッチ」機能を標準設置しています。
【参考資料】
国産素材の心地いい木造住宅が、森を救う国産素材の心地いい木造住宅が、森を救う|カーボン・オフセット取組紹介|カーボンオフセットフォーラム|J-クレジット制度
J-クレジット制度の導入事例は年々増加しており、カーボンニュートラルに取り組む企業を中心に活用増加が予想されています。
クレジット購入で循環した資金が、国内の環境事業に投資されることでさらに好循環を生むことが期待されています。私たちの身近な場所でも、導入事例が見られるようになるかもしれません。
(ライター:とうま)
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