コラムCO2削減エシカル消費

学校教育でローカルプロダクトを活用! 給食や学びの事例

2024.12.25

ローカルプロダクトとは、その地域で採れた農水産物や生産された製品のことです。地元産の農水産物を使った調理は特に「地産地消」と呼ばれ、多くの学校で導入されています。

学校給食のように大人数の食事を作る場合、当然大量の食材が必要です。ところが、地産地消に日常的に取り組もうとすると「食材の安定供給が難しい」という欠点があります。同じ地域の農作物は天候・自然災害、病気などの条件が共通するため、採れない年はどの農家でも採れない場合が多いためです。

この記事では、給食で日常的な地産地消を実現している学校事例をご紹介します。ローカルプロダクト購入と地産地消のメリットや、授業や体験学習での活用事例も解説するので、ぜひご覧ください。

ローカルプロダクトを活用するメリット

ローカルプロダクトには、輸送による温室効果ガスを削減できるというメリットがあります。

海外や国内の遠く離れた地域で生産された製品を使うには、まず手元に運んでこなければなりません。輸送に使う長距離トラックや飛行機は、機能改善や関連制度の整備が進んだものの、いまだに多くのCO2を排出しています。

環境省の発表によると、2022年度に国内で排出されたエネルギー起源のCO2は約9億6,400万トンでした。このうち、運輸部門は1億9,200万トンです。

運輸部門は、自家用車などの「旅客輸送」、長距離トラックや飛行機などが含まれる「貨物輸送」に大きく分けられています。CO2排出量1億9,200万トンのうち、貨物輸送は全体の4割です。また、運輸部門全体で最もCO2排出量が多いのは自家用車(45%)ですが、長距離トラックなどの貨物自動車は2番目に多くなっています(38%)。

ローカルプロダクトの利用によって輸送品を使わないようにすると、上記のCO2排出量削減にささやかな貢献ができます。個人単位では実感が生まれにくいかもしれませんが、学校単位ではより大きな効果が生まれるはずです。

教育現場ならではの、次のようなメリットもあります。

・「エシカル消費」を学ぶきっかけになる
・周辺地域とのつながりを深められる
・自分たちの町を知る機会になる

エシカル消費(倫理的消費)とは、社会的課題へ配慮したり、その課題に取り組む人・団体を支援したりできる製品を選ぶ消費活動です。ローカルプロダクトの利用は、「買い物で社会問題の解決に貢献する」という視点を身につけてもらうためにも有効といえます。

【参考資料】
輸入品からローカルプロダクト購入へ!地産地消のために学校で実施できること|Operation Green
カーボンフットプリントとは? 企業の取組、メリット、課題 | Operation Green 循環型○○の実践プログラム
2022年度(令和4年度) 温室効果ガス排出・吸収量について|環境省
地産地消でSDGsをもっと推進。なぜ必要か、意味や事例、今すぐできることを紹介|千葉商科大学

食べ物の地産地消と「フードマイレージ」

食材の輸送による環境負荷は、「フードマイレージ」でも把握できます。

フードマイレージは、「輸送する食料量×距離」で表す環境負荷の指標です。1990年代にイギリスで起こった「フードマイルズ運動」に由来する考え方で、日本では2001年に導入されました。

フードマイレージが少ないほど輸送によるCO2排出量が少ないため、環境負荷が低いと考えられます。日本は国土が狭いうえ島国であるため、フードマイレージが増加しやすいです。また、食料自給率の低さも以前から問題になっています。

食材の地産地消は、フードマイレージや食料自給率の観点からも推進したい取り組みです。学校給食での地産地消には、次のようなメリットもあります。

・新鮮な旬の食材を使える
・地域の活性化につながる
・生産者と交流する機会を作ることもできる

さらに、地域の農業が活性化すれば農地が保全されるため、洪水の防止や景観の維持にもつながります。子どもたちにとっても、自分たちの給食が周辺環境や日本にどのような影響を与えているか、深く理解できるきっかけにもなるでしょう。

【参考資料】
学校給食で地産地消!メリットと取り組み事例紹介 | Operation Green 循環型○○の実践プログラム
食べ物の地産地消の問題を解決する地域の取り組み | Operation Green 循環型○○の実践プログラム
フードマイレージ(Food mileage)|新電力ネット
フード・マイレージ|NHK for School

学校給食で地産地消に取り組んでいる地域事例

山形県高畠町和田小学校の「自給野菜組合」

山形県高畠町の和田小学校は、給食の食材に「和田地区自給野菜組合」から地元産の無農薬・減農薬野菜の供給を受けています。1964年の組合結成から開始した取組で、例えば2012年度の給食回数のうち、地元の農作物を活用した献立は全体の約88%でした。使用した野菜・果物の地場産率は全体の68.2%を占めています。

学校給食で地元の食材を活用する際、ネックとなるのが「供給の不安定さ」です。自給野菜組合では、毎月の定例会で各学校の「自給野菜注文書」をもとに話し合い、組合員それぞれが納入する食材の種類・量を決定します。安定供給できる仕組みを整えている点が特徴的です。

和田地区自給野菜組合は、地元の安心・安全な食材を供給するため、当時の児童の母親たちが中心となって始めた活動です。2010年に中学校の学校給食が始まった際は、新たに中学校部会も発足しました。現在は合わせて20名が在籍、なかには自分の子ども・孫・ひ孫の3世代に野菜を供給してきた組合員もいる息の長い活動です。

和田小学校と自給野菜組合の活動は高畠町内の他の地域にも影響を及ぼし、現在は町内全域の学校で給食による地産地消に取り組んでいます。2019年度、高畑町の学校給食の地場産農作物使用割合は57.2%でした。子どもたちの食事や健康を考えた母親たちの活動が、数十年かけて範囲を拡大しています。

【参考資料】
取組事例集|農林水産省
和田地区自給野菜組合(山形県高畠町)|農林水産省
農委広報たかはた 第48号|高畠町農業委員会

長崎県平戸市「北部学校給食共同調理場」の取組

長崎県平戸市の北部学校給食共同調理場では、年間60種類もの地元産の野菜・果物を献立に取り入れています。PTAや栄養士会、JA・商工会議所、医師会などで構成された「平戸市食育推進会議」との協力のもと、学校給食を「教材」にする取組です。

地元の農産物を優先的に使用するため、北部共同調理場では2001年から直売所との連携を始めました。旬の野菜・果物の種類や量、時期などの情報を共有して献立づくりにいかしたり、1年を通して大量に使用するじゃがいも・玉ねぎを直売所で確保・長期貯蔵してもらったり、複数の学校に給食を配送する調理場ならではの工夫をしています。

タケノコや山菜のように手間がかかるため使用が難しい食材は、直売所や生産者の協力を得て下処理後に納入してもらう体制を整えました。また、平戸市の伝統野菜「木引かぶ」や近年需要が減っている里芋の親芋、水芋の茎、マコモダケなども献立に取り入れており、食育にも大きく貢献しています。

食材や生産者の思いを紹介する給食集会、小学校高学年による地場産物を使った「給食献立コンテスト」など、学校給食を軸に学びを深めている事例です。

【参考資料】
取組事例集|農林水産省
第3回食育活動表彰 事例集|農林水産省

ローカルプロダクトを活用した学びに取り組む学校事例

地元産食材を使った商品開発に取り組む大洲農業高校

愛媛県立大洲農業高校の食品デザイン科には、3年間を通して地元産の食材を活用した商品開発に取り組む授業があります。開発した商品は、地域の農家や食品製造事業所の協力のもと商店街や直売所で販売しています。

商品開発は、総合的な学習の時間の1つです。1年次は食品製造の基礎学習と地域実態調査、2年次の試作と検証を経て、3年次に晴れて商品化に至ります。地元農家や商店、周辺住民との交流を重ねながら、3年間かけてじっくりと学んでいます。

しいたけうどん、にんじん豆腐、菜の花もち、おうどいもコロッケなど、ユニークな商品を数多く開発してきました。大洲市の農産物直売所「たいき産直市 愛たい菜」には、大洲農高の常設展示と販売コーナーを設置しています。土日には生徒たちが対面販売をすることもあり、授業を通して商品の開発・生産から販売までの一連の流れを体験しています。

【参考資料】
愛媛県立大洲農業高等学校|農林水産省
大洲農業高等学校|おおず魅力再発見|大洲市
地域と繋がる食農教育事例!学校給食や授業で取り組む「地産地消」 | Operation Green 循環型○○の実践プログラム

福島県の伝統工芸品「海老根和紙」の活用事例

福島県郡山市の「海老根伝統手漉和紙」は、江戸時代初期から農家の冬の副業として作られ始めた伝統工芸品です。郡山市立海老根小学校の児童たちは、1年生のときから海老根和紙について学んでいます。

原料となるコウゾやトロロアオイを実際に育てたり、海老根和紙の歴史を学んだりと郷土への知識を深めます。6年生になると和紙の手すき体験の授業があり、そのとき漉いた和紙を自分の卒業証書にする取り組みです。

江戸時代から続く海老根和紙ですが、パルプ紙の使用が主流となった昭和に入ると後継者が育たず、1988年に最後の職人が廃業して1度途絶えてしまいました。10年後の「海老根伝統手漉和紙保存会」結成から再び少しずつ広まるようになり、現在に至っています。

海老根和紙は、東日本大震災からの復興を祈念する「復興の灯火プロジェクト」にも貢献しています。2019年に始まったこのプロジェクトでは、メッセージを記した海老根和紙で灯篭を作り、郡山駅前の会場を温かく彩っています。

2020年からは郡山女子大学短期大学部・地域創生学科のプロジェクトチームが主導し、活動を広げています。2022年には、会場におよそ600基の灯篭を並べ、コロナ禍を踏まえてオンラインでもメッセージを受けつける仕組みも作りました。学生たちだけでなく、地元の商店街や姉妹都市の住民、郡山市に避難している方々など、多くの人で作り上げているプロジェクトです。

【参考資料】
郡山市立海老根小学校
海老根伝統手漉和紙|日本伝統文化振興機構(JTCO)
地域と学校をつなぐ和紙|復興の灯火プロジェクト

まとめ

学校給食の食材や、授業や体験学習にローカルプロダクトを活用している事例をご紹介しました。

冒頭に述べたように、地元産の食材を安定的に大量利用するのは、天候や災害・病害の面から難しい場合もあります。ご紹介した事例では、日常的な給食で地産地消を実現するために生産者や直売所、周辺住民や行政と連携して安定供給できる仕組みを整えていました。食材に限らず、ローカルプロダクトの活用には地域とのつながりを生かした仕組みが不可欠です。

地域とのつながりを生かした取り組みは、子どもたちにとって「プラスアルファの学び」になる可能性もあります。ぜひ検討してみてください。

(ライター:佐藤 和代)


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