コラムCO2削減省エネ

「断熱」でCO2削減!学校での気候変動対策

2024.10.03

エアコンを入れても、教室が涼しくない。気候変動で猛暑日が増える夏、子どもたちが多くの時間を過ごす学校の教室にも影響があらわれています。

そこで学習環境を改善し、CO2削減にもなる取り組みとして注目されているのが「断熱」。本コラムでは、地球温暖化による気候変動対策として、教室の断熱化の事例をお伝えします。

全世界が取り組む「気候変動」

豪雨や干ばつ、熱波など、気候変動による災害が世界各地で起こっています。これは、CO2など温室効果ガスにより引き起こされる地球温暖化が原因です。IPCCによると世界の平均気温は、工業化以前と比べて1.1度上昇しました。

これにより、日本では記録的な大雨や高温が発生。これまで経験したことがないような気象災害が引き起こされ、熱中症にかかる人の増加、お米など農作物の品質低下、といった身近なところにもその影響はあらわれ始めています。そして何も対策を取らなければ、地球の気温はさらに上昇し、気候変動による被害はますます拡大すると考えられているのです。

こうした気候変動の影響を最小限に抑えるために、世界共通の気候変動対策として採択されたのが「パリ協定」です。

そこでは世界共通の長期目標として、産業革命以降の世界の平均気温の上昇を2度より十分低く保つとともに、1.5度に抑える努力を追求すること、が示されました。しかし、2023年4月時点で、各国が提出した温室効果ガス排出量の削減目標では、“2度”目標を達成するには十分ではないということがわかっています。

【参考資料】
JCCA「パリ協定」
気候変動適応情報プラットフォーム「気候変動とは」

 

対策は「緩和」と「適応」

気候変動の対策には、「緩和」と「適応」があります。「緩和」とは、CO2など温室効果ガスの排出量を削減し、気候変動の原因を少なくすること。そして「適応」は、すでに生じている、あるいは将来予測される気候変動の影響に備えることです。

気候変動を抑え、脱炭素やカーボンニュートラルを実現するうえで、「緩和」は最優先で取り組む課題です。具体的には、省エネや再生可能エネルギーの利用などが当てはまります。それと同時に、すでに起きている気候変動の影響から私たちの生活や身体を守るために、災害への備えや熱中症の予防といった被害を軽減する「適応」を進めることも求められています

重要なのは、「緩和」と「適応」をうまく組み合わせながら取り組むことです。

 

【参考資料】
環境省「緩和」と「適応」
気候変動適応情報プラットフォーム「気候変動と適応」

 

気候変動が学校に及ぼす影響とは?

 

夏の暑さが厳さを増すなか、学校の教室もその影響を受けて室温が上昇。熱中症のリスクが高まりました。そこで文部科学省により公立小中学校の教室へのエアコンの設置が進められ、2022年で設置率95.7%を達成した一方で、エアコンを入れても教室の温度が下がらず、外気温と室温がほぼ変わらないという状況が全国的に起きています。

例えば、さいたま市の小学校で行った計測では、最上階の教室で、夏の授業中にエアコンを最低温度で運転しても、室温が30度を超えていました。

教室が適温にならないのはなぜでしょうか?それは、学校の建物自体に熱を防ぐ断熱改修が施されていないためです。つまり、窓などから外の暑い空気が入り込み、最上階の場合には、屋上からの輻射熱を受け天井の表面温度が上がることで生じています。さらに、換気のために窓を開けると、高温高湿の外気が入ってくる状況です。

また、冬には屋根、壁、窓から教室内の熱が逃げてしまうので、暖まりにくく、特に寒さの厳しい長野県では寒さが原因で授業に集中できない生徒たちがいることもわかりました。

【参考資料】
日本教育新聞 教室をDIYで断熱改修 さいたま断熱改修会議による「芝川小・遮熱フェス2022」
学校建築脱炭素研究会 NPO法人上田市民エネルギー 資料

 

「夏は涼しく、冬は暖かい」を可能にする“断熱”

一般的に建物では、屋根や壁、床の他、窓やドアなどの開口部から熱が出入りします。なかでも窓は、断熱性を高めるうえで、最も効果的な方法だといわれています。その理由は、夏には外からの熱の73%が窓から入り、冬には部屋を暖めた熱の58%が窓から出ていくためです。

家の熱の入り(出典:環境省「デコ活」

 

暖房使用時、外に熱が逃げる割合の例。 (出典:環境省「デコ活」

 

断熱改修では、日差しを遮ると同時に断熱を強化する内窓を設置するほか、天井にグラスウールと呼ばれる断熱材を敷き詰め、壁には断熱を施すことで、教室が「夏は涼しく、冬は暖かくなる」という効果が得られます。

断熱により熱の出入りを抑えたら、夏も冬も教室を適温に保つことができます。夏には室温が5~6度下がったことが確認され、冬に断熱改修を実施した長野県岩村田高校の教室では、断熱材を入れた壁と入れてない壁の温度差が約7度と、はっきりした表面温度の差があったこともわかっています。

それだけではなく、熱の出入りを抑えるとエアコンの効きがよくなるので、消費電力を大幅に抑えられます。ストーブに使う灯油の使用量も減り、CO2削減にもなります。断熱は、子どもたちの学習環境を快適にすることはもちろん、CO2を削減し地球温暖化の防止にもつながるのです。

【参考資料】
流山市公式サイト「流山北小で断熱改修ワークショップ
学校建築脱炭素研究会サイト NPO法人上田市民エネルギー資料

学校での事例を紹介

こうした教室の断熱化が日本各地で広まり、すでに20校を超える学校で実施されているといわれています。2019年ごろから始まったこの活動は、生徒や保護者が声をあげて行うDIYワークショップ形式が多くを占めるなか、葛飾区などの自治体が予算をつけて実施する新しい動きも出てきています。

・長野県の県立高校6校

気候変動に危機感を抱いた高校生が声をあげたことで、教室の断熱プロジェクトが実現されました。白馬高校、そして上田高校で実践し、2022年度からは長野県のプロジェクトとして予算化。2校に加えて、染谷丘高校(上田市)、岩村田高校(佐久市)、須坂高校(須坂市)、穂高商業高校(安曇野市)の4校が参加し、県内各地で学校の断熱化が進められました。

生徒だけでなく、学校の先生や建築の専門家、地域の工務店、環境問題に関心のある大人が協力し合い、一人ひとりが手を動かしてDIYをするワークショップ形式をとっていることが特徴です。

 

・千葉県流山北小学校

令和5年8月、流山北小学校では断熱改修ワークショップとして開催し、市内外の小学生とその保護者14組36人が参加しました。改修したのは、最上階にある、日照の影響を受けて暑くなりやすい教室です。

この取り組みは、市内工務店が流山市の目指すゼロカーボンシティに貢献したいと企画したもの。座学では断熱の必要性と効果について学習したあと、グループに分かれて教室の壁や天井に断熱材を入れたり、アクリル製の内窓を作って取り付けたりしました。

改修費は、クラウドファンディングにより調達され、目標額の130万円を上回る約191万円が寄せられたことからも、この取り組みに対する関心の高さが伺えます。

 

・千葉商科大学
千葉商科大学では、学内の学生団体「SONE(自然エネルギー達成学生機構)」が中心となって、DIYによる断熱改修ワークショップを開催。SONEは、“学生に無理をさせない省エネ活動”をモットーに、2018年から学内外で省エネ啓発活動を推進する団体です。

学生をはじめ、建築の専門家や地元工務店の協力のもと、2022年および2023年に2教室の断熱を実施。また、断熱ワークショップの知見を広めるために、大学のイベント「瑞穂祭」や地域の親子向けイベントで断熱施工教室の見学会、学外イベントでの講演なども行いました。

 

・葛飾区の小・中学校

葛飾区では、区が予算化をつけて、2校の小・中学校で断熱改修を実施しました。「ゼロエミッションかつしか」の実現に向けて、既存建物の省エネ性能を高めるための取り組みです。

断熱改修を行ったのは、清和小学校(2022年)および青葉中学校(2024年)の一部教室でした。窓の二重サッシ化や室内への断熱材の施工を行い、断熱材の設置では生徒が体験できるワークショップも実施。断熱改修により、夏はエアコンの効きがよくなり、省エネの効果が報告されています。

 

【参考資料】
日本経済新聞「教室を児童の手で断熱改修、環境教育にも 予算化を訴え」
流山市公式サイト「流山北小学校で断熱改修ワークショップを開催します」
葛飾区公式サイト「既存建物の省エネ化について」
千葉商科大学「学生主体で2教室目となる断熱改修を実施しました」

教室の断熱は、気候変動への対策として、子どもも大人も参加できる実践型の取り組みです。小学校から大学まで日本各地で行われている取り組みで共通するのは、気候変動を自分ごととしてとらえるきっかけになること。

普段過ごす教室の窓や壁、天井に断熱材や内窓を施すだけで、暑さや寒さが防げることを実感でき、CO2削減にもつなげられるこの取り組みは、意義あるものだと思います。

教室の断熱化の取り組みは、気候変動を防ぐ確かな一歩です。この一歩が持続可能な未来へと広がっていくことを願っています。

(ライター:藤野 あずさ)

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