コラムエシカル消費廃棄物

リユース・リサイクルに注目! 衣服の廃棄を減らす企業事例

2024.12.19

「大量生産・大量消費」が拡大しているといわれるファッション産業。国内における衣服の供給数は増加する一方で、1着あたりの価格は年々低くなっています。個人においては年間で、手放すより購入する枚数が多く、1年間で1回も着られていない服は1人あたり35着にのぼります。

衣服の製造段階で引き起こされる環境問題も深刻。サステナブルなファッションへの転換が求められるなか、解決策として広がっているのが「循環型ファッション」の取り組みです。

ここではリユース・リサイクルにフォーカスした、企業の循環型ファッションへの取り組みをご紹介します。

循環型ファッションとは?

「大量生産・大量消費・大量廃棄」という従来のビジネスモデルに対し、循環型ファッションとは、「適量生産・適量購入・循環利用」により、衣服や素材を循環させ、廃棄される衣服を少なくする循環型の取り組みです。

具体例としては、以下が挙げられます。
・今持っている服を長く大切に着ること(長期間着られることを前提とした商品企画やリペア
など)
・リユースすること(シェアリングサービスの導入、フリマアプリなどリユース市場の拡大など)
・先のことを考えて生産販売すること(適正な在庫管理、短サイクル化の見直し)
・作られ方をしっかり見ること(サステナブルな素材の使用の有無を伝えるといったトレーサビリティの確保、アップサイクルへの挑戦)
・服を資源として再活用すること(店頭回収の推進、服から服を作る取り組みなど)

【参考資料】
SUSTAINABLE FASHION|環境省

環境への負荷が大きい衣服

サステナブルなファッションが求められる理由の一つに、環境への負荷があります。衣服の原材料調達から始まり、紡績や染色などの製造過程で引き起こされる環境問題は深刻です。

原材料調達から製造までに排出されるCO2は9万トン、水消費量は83億m3に及び、服1着あたりに換算すると、500mlのペットボトル約255本分(約25.5kg)のCO2を排出し、浴槽約11杯分(約2300L)の水を消費することになります。

そのほか、生産過程で余った生地など廃棄物が発生し、染色など化学物質による水質汚染も生じています。

【参考資料】
SUSTAINABLE FASHION|環境省

消費されたあとの衣服のゆくえ

このように、多くの地球資源を使い、環境にさまざまな負荷がかかっているにも関わらず、消費されたあとリユース・リサイクルされる割合は低いのが現状です。

手放された衣服のうち、68%は可燃ごみ、不燃ごみとして廃棄。焼却処分・埋め立てされています。これは、リサイクルショップやフリマアプリなどでの譲渡・売却、資源回収や地域・店舗で回収される割合を上回る数字です。

一方、リユース・リサイクルにより再活用される割合を見ると約34%と低く、年々その割合は高まっているものの、発展性のある分野だといえます。

【参考資料】
SUSTAINABLE FASHION|環境省

国内外で加速する循環型モデルへの動き

循環型モデルの実現に向けた取り組みが世界的に加速しています。2020年にはフランスで、売れ残った新品の衣料品を、企業が焼却や埋め立てにより廃棄することを禁止する法律が公布。2022年1月からリサイクルや寄付による処理が義務付けられました。EU全体でも2022年12月に同様の法案が大筋合意され、廃棄禁止へ向けた動きが広がっています。

日本では、ファッション・繊維企業により2021年に設立された「ジャパンサステナブルファッションアライアンス(JSFA)」が、「ファッションロスゼロ」「カーボンニュートラル」を目指した取り組みを始めました。

多くの企業が開発段階や生産工程、利用後の回収しやすい仕組み構築などさまざまな取り組みを検討し、循環型ファッションへ向けて踏み出しています。

【参考資料】
サステナブルファッションの動向について|財務省
SUSTAINABLE FASHION|環境省

企業の取り組み事例

「簡単に捨てない」「むやみに新しい物を買わない」を提案するサルト株式会社

銀座をはじめ国内に6店舗、海外パートナー店舗も展開するサルト株式会社では、「受け継ぐお直し」を提案。物を大切に長く使い続けてほしいという想いから、洋服を世代を超えて受け継ぐ事業に取り組みます。父親のスーツを息子が受け継ぐといった家族とのつながりや想い、歴史などを受け継ぐ、ストーリー性のある「体験・コト」を提供している点が大きな特徴です。

また、洋服お直しのイメージを変革するための「提案型サロン」も運営。受け身で依頼を受けるのではなく、スタッフが採寸を行いアイデアや着こなしを提案します。リメイクという「洋服お直し=修理」をいうイメージを超えた広い可能性を提案してくれます。

【参考資料】
サルト株式会社
SUSTAINABLE FASHION|環境省

丁寧な服作りで衣類ライフサイクルの長寿化を実現するザ・ノース・フェイス

「ザ・ノース・フェイス」では、1着の服の着用期間を長くするための仕掛けを随所に盛り込むことによって「究極のエコ」を押し進めてきました。

「EXP GROW system」は、子どもの成長に合わせて袖丈、裾丈を伸縮調整できるキッズウェア。通常のウェアより1年長く着用が可能になりました。

マタニティウェアにおいては、産前だけでなく産後も使えるというコンセプトを大切にした「MATERNITY」「MATERNITY+」がそろいます。

妊娠中、産後の体型変化に合わせてシルエットの変更が可能なオーバーオールや、産後も子どもと一緒に着ることのできるシステムを備えたダウンコートを開発するなど、妊娠中から子どもの成長後まで、長く使える製品の設計を行っています。

また、破損した場合などの保証制度とリペアサービスも実施。リペアサービスでは年間約14,000点のリペアを行っています。「究極のエコは、購入された商品をお客様が一日も長く、大切に使うこと」という考え方が体現された取り組みです。

【参考資料】
EXP GROW system | THE NORTH FACE
THE NORTH FACE MATERNITY+ | THE NORTH FACE
SUSTAINABLE FASHION|環境省

一着の衣類を長く着ることの価値を提案するパタゴニアの「Worn Wear College Tour」

「Worn Wear College Tour」は、リペアトラックで全国の大学・専門学校を回り、服の修理を無料で行うイベントです。2024年10〜11月、5年ぶりに開催されました。

「新品よりもずっといい」を合言葉に、破れたり、壊れて着なくなったりした衣類を修理し一着の衣類を長く着ることの価値を提案しています。

衣類をより長く着る方法を学び、モノを使い続ける喜びを分かち合おうと、イベントではリペアスタッフによる修理、セルフリペア体験、古着を使ったアップサイクルワークショップ、古着交換会などが行われます。

循環性の高いツアー運営も特徴です。リペアトラックには地域コミュニティから回収した使用済みの植物廃油を使用。走行時の燃料として使用し、CO2排出の約98%をオフセットしてカーボンニュートラルに近づけています。

さらに、リペアトラックにはソーラー発電パネルを積載。修理に使用するミシンや照明の電力はすべて太陽光発電でまかなわれ、ツアー運営およびサービス提供の際に発生した生地の端切れや糸くずなどは、適切なアップサイクルおよびリサイクルができるように分別および計測され、可能な限りオフグリッド・ゼロウェイストでイベントが運営されています。

【参考資料】
Worn Wear College Tour| patagonia
パタゴニアの「つぎはぎ」が関西大学へ|学校法人関西大学

リユース・リサイクルに注目した企業事例を紹介してきました。

近年、ファッションでもサステナブルな選択肢が増え、ファッションのあり方が変わりつつあります。とはいえ、循環型ファッション実現への道のりは長く、企業と生活者の双方から取り組みを進めていく必要があります。

つくる側とつかう側のサステナブルな選択が、これからのファッションをつくっていくことに期待します。

(ライター:藤野あずさ)

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